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三里塚のイカロスのうにたべたいのレビュー・感想・評価

三里塚のイカロス(2017年製作の映画)
4.0
成田空港建設に伴う建築用地確保の際に勃発した、地元農民による反発闘争"三里塚闘争"を扱ったドキュメンタリー。
前作『三里塚に生きる』の姉妹作として制作されており、時系列的に後の話というわけではなく、前作で取り上げきれなかった、もう一つの三里塚闘争の歴史が描かれています。

内容は前作同様、当時、闘争に参加していた人々をインタビューし、当時の映像と共に振り返っています。
インタビューは基本的に成田空港の敷地に近い場所で行われています。
その中で、インタビュー中に警備が質問に来るシーンがあって、立ち入りを禁じている場所というわけでもなく、それどころか、空港が建つずっと以前からそこに住んでいた人が、そこにいるというだけで警備が近寄ってくるというところに特異というか、異常な感じを受けました。
本作では、なぜ成田空港の周囲が、三里塚がそういう場所になってしまったのかについて述べられています。

前作では、インタビューに答えていたのは、基本的には反対同盟でも最終的に平和的解決の道を模索した熱田派、あるいは旧熱田派が主で、空港建設の突然の連絡から、機動隊との衝突、東峰十字路事件や、青年行動隊員の自殺など、三里塚闘争の中で起きた大きな事件が語られていました。
ただ、元々農民たちが決起した三里塚闘争は、実際のところ農民だけの力だけで事を成すには難しいところがあり、彼らを手助けをするため第四インターやプロレタリア団体、中核派などの極左翼が駆けつけ、日本政府を相手取って三里塚の農地を守るために共に戦っていました。
本作『三里塚のイカロス』で中心となっているのはその極左翼の支援者で、三里塚という場所で起きた理不尽な国の横暴に対し、平等な国民の権利を守るために駆けつけ戦った人々の歴史が描かれたドキュメンタリーになっています。

はっきりいって、かなり攻めたドキュメンタリーだと思います。
ML派や中核派の闘争内容やメンバーのインタビューが入ったドキュメンタリーとか、感想でも下手なこと書けないですね。
本気で成田空港に反対したい農民と、彼らを支援して政治闘争の成功例としたい極左翼のベクトルが合致した結果、両者は手を組むのですが、やがて三里塚が全国の政治闘争の中心地となることに、地元の活動家は違和感を覚えるようなシーンがあります。
そういった意見は、当時を知る人が生きていて彼らの中では思い出になりつつある、一方で実際、闘争は終わっていない今だからこそ語ることができるのかなと思います。
本作は、闘争を後世に残す、非常に貴重なフィルムだと思います。

闘争内容も前作より強い内容になっていると感じました。
団結小屋である岩山鉄塔の強制撤去騒動、成田空港を地下から侵入し管制塔を襲撃した成田現地闘争、そして元用地職員の自宅爆破事件などについて語られていて、前作でもかなりの驚きがありましたが、本作でさらに、闘争が想定以上に激しかったことを再認識させられました。
なお、作中では三里塚闘争が現在も続けられていて、支援を受けて空港用地内で小作農耕を続け続けている農家も存在することなどについては触れられていません。
個人的には、本作で述べられた三里塚闘争もまた、多角形の一方向での視点でしか無いと感じました。
もし続編が作られ、政府や空港職員、警察側からの視点でも語られるのであれば、是非見てみたいと思いました。