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ヨーロッパ特急のakrutmのレビュー・感想・評価

ヨーロッパ特急(1984年製作の映画)
3.7
欧州を舞台に男女のプラトニックな恋愛を描いた、大原豊監督の恋愛トラベル映画。日本映画専門チャンネルの企画「鉄道開業150周年:想い出の列車たち」の中の一作として放送していたので鑑賞。

どのような経緯でこのような映画を製作したのだろうか。全編ヨーロッパロケで、主演の武田鉄矢の他は日本の俳優はほとんど出てこない。本映画を製作しているキネマ旬報社は、この頃、武田鉄矢主演で『刑事物語』シリーズも製作していたので、この関係(ってどういう関係なのかよくわからんが)なのかもしれないが、とても珍しい映画である。

内容はと言うと、『ヨーロッパ特急』というタイトルからは列車内を舞台にしたミステリーものを想像してしまう(注:個人的な勝手なイメージ)が、なぜか英題が付いていて、それは完全なネタバレ。とは言っても、日本映画専門チャンネルの作品紹介にも堂々と書いてあるので、それを知ったからと言って本映画の魅力がなくなるわけでは全くない。何と紹介されているかと言うと…

武田鉄矢版『ローマの休日』

ちなみに、武田鉄矢が王女または王子の役ではないので、注意されたい。細かい設定はもちろん違うけれど、確かに大まかなストーリーラインはまさにローマの休日である。武田鉄矢にお洒落な役を無理にさせるわけではなく、本来のイメージどおりに演じさせているところは好感が持てる。あまり英語がしゃべれない日本人という設定なので、言葉での意思疎通はあまり出来ないが、それでもお互いに惹かれ合っていく感じを(ちょっと無理やりな気もするが)上手く演出している。当時のアムステルダム、パリ、ベニスなどの街並みや列車からの車窓が見れるのも嬉しい(個人的にはどうしても目が行ってしまう)。なので、『ローマの休日』のパロディというほどではないが、ラストシーンの「このタコ」という台詞など、硬軟の微妙なバランスを取っている。

武田鉄矢の相手役を演じているのは、ガブリエル・サニエという無名の女優さん。日本人受けするような、かわいらしい表情が印象的。本作以外にほとんど出演作がないようだが、ネットを調べると当時の「スクリーン」誌の紹介記事を発見。約600名の候補者の中から選ばれたとある。さすがに日本映画で主演しても、本国のフランスでは女優としてやっていけなかったのかもしれない。その記事には、ソフィー・マルソーとはお互いの家を泊まり歩くほどの仲であるという記述もあって興味深い。

マリア・シュナイダーが3番目にクレジットされていて、どうせ一瞬映るくらいカメオ出演だろうと思っていたが、出演シーンは少ないものの、きちんと本作のために演技をしていて、武田鉄矢、ガブリエル・サニエとも絡んでいる。この頃は精神的にも落ち着いていた頃だと言われているが、それでも一貫して生気のない表情からは彼女の深い闇がうかがえる。さらに、ルネ・クレマン監督がミレーヌ・ドモンジョとともに列車内で出会う初老の夫婦役で出演しているなど、結構、頑張った映画だと感じる。
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