アズマロルヴァケル

シークレット・ルーム/アイ'ム ホーム 覗く男のアズマロルヴァケルのレビュー・感想・評価

3.6
ブライアン・クランストンの独壇場映画

・感想

ざっくり結論を言うと、かなり奇妙なホームドラマ。

映画全体はブライアン・クランストン演じるハワードが屋根裏部屋に住んで妻子の様子を陰ながら窓から覗いてるのがメインなので、殆どがハワードの独壇場状態。状況説明や妻子の背景は描かれているものの、全体的にはハワードの心理描写が主軸になっている模様。多分だけど原作のE・L・ドクトロウの短編『Wakefield』にもハワードの心情が描かれているだろうなぁと思う。

要はハワード自身が裏部屋での放浪者生活を機に自立・再生していく話に私は認識しました。例えば冒頭でハワードが野生のタヌキを追い払うシーンがあるのだが、このときのハワードはまだ野生のタヌキや放浪者の気持ちを分からずに都会の人間として生活してきたのだろうなぁと感じました。だけど、放浪者生活になると、野生のタヌキがメスのタヌキの亡骸に寄り添う様を薄着姿のハワードが見ているシーンを見て次第にハワードが自分とは違う世界にいるものたちを受け入れようとしているのではと思い、ある意味ハワードが成長できているところではありました。

また、画的には地味なシーンが連続する映画ではあるものの、ちょくちょくコメディ要素のあるシーンがあるのが見所でした。例えばハワードが屋根裏部屋で家の中の様子を覗いてるときにハワードが帰宅して妻のダイアナたちを驚かせようかと想像してはニヤニヤしているところはまあ秀逸。想像なのにも関わらずダイアナたちを驚かせようとする様がかなりはっちゃけているので誰もがそのシーンでクスクス笑ってしまうはず。

ただ、悪いところを言うと前半はアイデア勝負で挑んだ感じが映画を観てて伝わってくるので多少面白く観れたものの、
後半からは重要なシーンが挿入されている一方でちょっとだれてしまう感じが否めなかったです。後半ではダイアナの元恋人が家を訪問したり、唯一ハワードが
放浪者生活で心を許した相手が救いの手を差し伸べてくれたりと伝えたいところは押さえたいと思うんだけど、終盤に進むにあたって少しテンポの悪さが出てしまったところが惜しいです。

あとはラストシーンでハワードが家に帰宅したときに妻子のリアクションがないのが惜しかったです。リアクションがあれば妻子の本当の胸の内が明らかになったことでハワードが作った負の感情というのは作らなくてもいいんだということが提示できたのに、極めて主人公のエゴイズムでしか描いていない賛否の分かれる映画になってしまったのではないかと思いました。

だけど、この映画がクソほど駄作というわけではないし、なかなか考えさせられるドラマ映画ではあるので、割りと普通にオススメできそうな映画ではありました。