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タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のfujisanのレビュー・感想・評価

4.0
韓国近代史を映画で振り返るシリーズ

今回は、韓国近代史で最大の虐殺事件である光州事件を取り上げた映画です。

全斗煥(チョンドファン)政権下、光州市で発生した民主化デモを無差別に弾圧し、多くの犠牲者を出した『光州事件』

本作は、弾圧のために封鎖された光州市に向かう外国人ジャーナリストと、彼を乗せることになったタクシー運転手、二人の視点から光州事件を描いた、事実をベースにした映画。

こういった事件を正面から描くとドキュメンタリー的な悲劇の映像になってしまうのですが、本作では残虐な民衆弾圧を描きながらも、ソン・ガンホ演じるタクシー運転手によって笑いや友情、親子愛が共存する素晴らしいストーリーになっており、まさに『笑いと涙が共存する映画に駄作なし』



光州事件の死者数は公式には154人ですが、実際は行方不明者を含めるとその10倍はいるだろうと言われています。このあたりがはっきりしないのは、軍事政権下で街を完全封鎖しており、情報が伝わらなかったため。

今のようにドローンもスマホもSNSもない時代なので、街へ続く幹線道路を封鎖し、電話も不通にしてしまえば、情報は外に漏れず、やりたい邦題。そんな中、命を掛けて他国の真実を撮影したドイツ人ジャーナリスト、ユルゲン・ヒンツペーターには頭が下がります。

事実ベースの映画ということもあり、虐殺の事実もあって単純なハッピーエンドにはなりませんが、ラストシーンからエンドロールにつながる後日談や、映画公開後に判明した事実など、全てを通して胸に染みる実話であり、本当に観て良かった作品でした。
(いくつか後日談の参照元をコメントに書いておきます)

韓国では弾圧当時から徴兵制の元で若い市民が軍に参加していました。そのため、自国民を弾圧する側だった軍人も辛かったことでしょう。

映画ではそのあたりも描かれていましたし、最近公開されていた「HUNT/ハント」では、自国民の弾圧を命令した大統領に対する反感と当時の行動のトラウマに苦しむ元軍将校の姿が描かれます。

そのあたりの時代の流れはレビュー末尾に掲載しますが、中でもこの光州事件はショッキングな事件であり、本作以外にも多くの映画が作られているため、引き続き追っていきたいと思います。

(レビューとしては以上です)




以下、いつもの年表を掲載します。

□ 韓国の近代史(再掲)
1945 終戦(日本統治の終了)
~1948 連合軍による軍政
1948 大韓民国樹立、初代大統領:李承晩
1950 朝鮮戦争 ~ 1953
1961 朴正煕によるクーデター
1963 朴正煕大統領による軍政
1979 朴正煕大統領暗殺 ●映画「KCIA 南山の部長たち」
(ソウルの春、民主化運動の高まり)
1980 全斗煥大統領による粛軍クーデター、軍政開始
★1980 光州事件 ●映画「タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜」
1983 大統領暗殺を狙ったラングーン事件 ●映画「ハント」
1987 6月民主抗争~民主化宣言
1988 盧泰愚政権
1988 ソウルオリンピック開催

今回は、★部分になりますが、
流れとしては、年表上の●の3作品がそのままつながっています。

●1979 朴正煕大統領暗殺事件
 ・「KCIA 南無三の部長たち」
 ・朴正煕大統領による軍事政権→全斗煥大統領による軍事政権へ

●1980 光州事件
 ・「タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて」
 ・全斗煥政権下で発生した民衆弾圧

●1983 ラングーン事件
 ・「HUNT/ハント」
 ・全斗煥大統領暗殺を狙ったラングーン事件



以下は、実話検証とその後の後日談についての情報です。

(ネタバレ注意)

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・本作で描かれた外国人ジャーナリスト、ユルゲン・ヒンツペーターは、帰国後も生涯にわたってタクシー運転手キム・サボクを探し、2003年の韓国訪問での講演でも呼びかけた。しかし、対面は叶わず2016年に死亡

・2017年に映画公開。公開後、キム・サボクの息子キム・スンピルが名乗りを上げる。映画がヒットしていたことから売名行為ではないかと疑われるも、父とユルゲンが映った写真などもあり、本物と認められた

・映画では個人タクシー運転手として描かれていたキム・サボクだが、実際は外国人向けホテル所属のタクシー運転手であり、それもあって、見つける事ができなかった

・キム・サボクは、光州事件の4年後の1984年にガンで亡くなっていた
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参照元:(ウィキペディアおよび、ウィキペディアで示された参照元を除く)

韓国映画「タクシー運転手」の実在モデルが現れた|KBAN[ケイバン]
https://kban.me/article/7423

映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』は実話? モデルになった男の正体は。 – 韓国映画ジャーナルNowa!
https://nowa-journal.com/2021/11/17/taxi-driver-inspection/




2023年 Mark!した映画:339本
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