2010年10月。
ぼくはインポになった。
当時ぼくは田北さんという年上の女性とお付き合いしていた。
辺見えみりをちょっと不細工にした感じはぼくのタイプだった。
田北さんは吸うと水色の象が見えるという魔法のたばこを携行していた。
その日、田北さんは仕事から帰ってくるなり、「パンツ脱いで」とぴしゃりと言い放ち、魔法のたばこに火をつけた。
田北さんは魔法のたばこを吸うと言葉遣いが荒くなる。
おずおずとお気に入りのアルマーニのパンツを脱ぐと、田北さんは一本背負いの要領でぼくのぼくを力強く引っ張った。
「やめていたい」
確かにぼくはMっ気はあるが、今回のこれはちょっとばかし臨界点を越えている。
ぼくのぼくはおもちゃを買って貰えず不貞腐れた幼子のように、うんともすんともいわなくなった。
涙目のぼくを憐れむでもなく、田北さんの瞳の炎はめらめらと燃え盛る。
田北「きもちいいんでしょ」
ぼく「うん」
田北「ふにゃふにゃじゃん」
ぼく「ごめん」
田北「病院行けよゴミインポ」
ぼくは泣いた。
数日後、当時読んでいた雑誌の最後のページに広告を載せている泌尿器科へ歩を進めていた。
『バイアグラ即日処方』という文字に胸が踊る。
綺麗なクリニックの扉を開けると、これまた綺麗なお姉さんが「こんにちは」とぼくを出迎えた。
ぼく「あの予約したんですけど」
受付「お名前お願いします」
ぼく「立花ごにょごにょです」
受付「え」
ぼく「立花ゆうきですっ!」
かっとなると大きな声をあげてしまうのはぼくの悪い癖だ。
受付「今日はどうされました」
ぼく「え、今言うんですか」
受付「はい」
ぼく「インポなんです」
往復1500円もかけて見ず知らずのお姉さんにインポと自己紹介するぼくは変態以外の何者でもない。
高校卒業してすぐの未来ある少年を変態に仕立て上げる神を呪った。
順番待ちのソファーにはおっさんが何人かいた。事情は違えどぼくと同じゴミインポも含まれているのだろう。
優雅に週刊SPA!を読むおっさんには一種の風格すら感じる。
しばらくすると、「立花さんどうぞ」と看護師さんがやってきた。
名前呼ぶなクソがと思いつつ診察室へ入ると、エンケン似のいかついドクターが鎮座していた。
ぼく「これこれこういう理由でたたないんです。痛みはひきました」
ドク「んー、オナニーはする?」
ぼく「え」
ドク「いやおちんちんいじってる?」
ぼく「いや、意味は知ってますよ。しばらくしてません」
ドク「帰ったらしてごらん。若いから精神的なものだとおもうよ。一応バイアグラだしとくね」
ぼくは初対面のおっさんに自慰行為の約束をさせられ帰路についた。
不思議とさわやかな気持ちになった。
その日の夜、ぼくはドクターとの約束を守った。
田北さんにはしばらくしてふられた。『レベル不足』といわれた。
何の話か忘れたが、薬物はまじであかんよ。
映画は気絶するほどつまらなかったです。