よしまる

YARN 人生を彩る糸のよしまるのレビュー・感想・評価

YARN 人生を彩る糸(2016年製作の映画)
3.8
 yarn=糸。編み物や織物に使う糸のことで、糸は他にもスレッドとかストリングという言い方があるのだけれど、一般的にヤーンと言えばセーターを編む毛糸とか、カーテンやクッションに使う糸なんかの割と太めの糸のことを指す。
 また、物語、作り話を語るという動詞としても使われる。

 この映画は糸にまつわるお仕事をする3組のデザイナーにスポットを当てたドキュメンタリー。それぞれ糸を使ってアート作品、サーカスの衣装、子供の遊具を作ったりしているそのことが、まさに物語を紡いでいることとイコールになっている。

 スウェーデン生まれのサーカス、シルクールのデザイナーは、タテとヨコに絡み合う糸は人と人のつながりを表していると中島みゆきみたいなことを言うし、見せるだけのテキスタイルアートに行き詰まっていた日本人の堀内紀子は、遊具として使うことに発想を転換させパブリックアートとして開花させる。人としてのドラマを糸が生み出していることが象徴的だ。

 ヤーングラフィティと言われる、糸を使った落書きアーティスト、アイスランド生まれのティナは語る。「ずっと家の中にあった女性の手仕事を街の中へ引っ張り出すことをしたかった。街のエネルギーは男性的で尖った角や灰色だらけ。そこに家から連れ出した女性のエネルギーを持ち込むの」

 ボクはインテリアファブリックの仕事をしているので声を大にして言いたいのだけれど、日本の建築も超絶男性社会で、木や石やガラスを使ってかっこいい建物を造るのは得意でも、布、生地を使うことはほとんどない。まして色となるとまず否定される。窓装飾にしてもカーテンではなくブラインドやスクリーンで、しかもたいていは白や銀、黒、せいぜい木製。
 生地の持つ明るく、優しくて温かくてカラフルな魅力はなかなかお目にかからない。

 もちろん日本古来の侘び寂びの世界、シンプルな美しさが根っこにあることは確かだけれど、一方で日本にも染めや織りの高度に培われてきた技術がある。

 世界的にも天然素材やクラフト感、手作りの良さがトレンドとなっているいまだからこそ、あらためて編んだり織ったりして生み出される生地、そのすべての核となる「糸」にあらためて注目が集まるといいのになとと思う。

 爆弾、ミサイル、弾丸、そんな冷たくて固いものが飛び交うよりも、もっと温かくて優しい世界が訪れますように。