Omizu

グレインのOmizuのレビュー・感想・評価

グレイン(2017年製作の映画)
3.7
【第30回東京国際映画祭 グランプリ】
『卵』『ミルク』『蜂蜜』の「ユスフ三部作」で知られるトルコのセミフ・カプランオール監督作品。「ユスフ三部作」はそれぞれ三大映画祭で上映され、『蜂蜜』はベルリン映画祭金熊賞を受賞、それ以来7年ぶりの新作。ちなみに最新作『Baglilik Hasan』は去年のカンヌ映画祭ある視点部門に出品されている。

荒廃し格差社会の広がるディストピア的世界で、食糧不足を解決するべく大企業の科学者がその秘密を握る謎の科学者を探す旅に出る…

モノクロ画面の撮影は素晴らしく、静的ながらも印象的なシーンがあり上手いなと思った。

色々なテーマを象徴的に盛り込んでいる。遺伝子が優れている人は「街」に住むことができ、それ以外の人々との居住区とは見えない壁があるというのは格差社会、優性主義への批判であるし、遺伝子を組み換えるという人間の範囲を超えた科学への批判的眼差しもある。終盤はかなり内省的な話になっていき、人間として失ったものへの悔恨が頭をもたげる。

それらを統合して美しいディストピアSFをつくりあげたというのは賞賛に値するだろう。タルコフスキーの影響が随所で垣間見える。話の骨格は『ストーカー』『惑星ソラリス』だし、「燃える木」はタルコフスキーのシンボル。しかし単なる模倣ではなく独自の解釈を加えているのがいいと思った。

ただ色んなテーマを盛り込みすぎというのは感じなくもない。ちゃんとまとめきれているかというと微妙かな。

でも全てを説明しすぎないのはよかったし、観客に考えさせる映画になっていたと思う。

初カプランオールがこれでよかったのかとは思うが、U-NEXTでの配信がもうすぐ終わりなので今後観られないかもと思うと観て良かったかな。退屈する瞬間がなかったかというと嘘になるけど、底知れない哲学を感じてなかなか好き。
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