MasaichiYaguchi

小さな橋でのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

小さな橋で(2017年製作の映画)
3.4
本作は、没後20年、生誕90年を迎える藤沢周平さんの短編集「橋ものがたり」の一編を、松雪泰子さん主演で杉田成道監督が映像化したもの。
既にBS放送や時代劇専門チャンネルで放映されたが、改めて映画館で上映されている。
「橋ものがたり」は橋を舞台に江戸の市井の人々のドラマを人情味豊かに、時に切なく描いたものだが、「小さな橋で」は杉田監督の代表作「北の国から」を彷彿させるような家族物。
この家族物の時代劇のユニークなところは、10歳の少年・広次が狂言回しとなって物語を展開させている点。
それにしても広次の置かれている状況は子供にしては辛過ぎるもので、幼い時に父・民蔵は博打がもとで働いていた店の金に手を出し、挙句は出奔して行方知れず、この父の愚行で母・おまきは父の借金返済と生計を立てる為、飲み屋で酔客相手に酌婦をしている。
そして姉・おりょうは店に奉公しているものの、道ならぬ恋に走り、それを咎めるおまきとの諍いが絶えない。
母と姉に囲まれ、一家の唯一の男手とはいえ、所詮10歳の子供、大人の世界もよく分からず、やれることにも限りがある。
細い糸で辛うじて繋がり、家族の体裁を保っていた一家は、ある事が切っ掛けでバラバラになりそうになる。
悲惨としか言いようがない広次の家族の物語だが、不思議と観ていて暗くならないのは、広次の少年らしいあどけなさや、辛い状況を笑いに転化するようなバイタリティにあると思う。
「橋ものがたり」の一編として本作での「橋」は、渡ってしまったら元には戻れない、“越えてはならない一線”のメタファーになっている。
この作品は時代劇ではあるけれど、子供の視点で描いた一線を越えてしまった家族の危機という点で、現代社会にも通用する物語だと思う。