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サリュート7のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

サリュート7(2017年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

1985年、ロシア初の宇宙ステーション、サリュート7号が突如消息を絶った。地上からの呼びかけに応じず、遠隔操縦もできない。このままでは地球に落下してしまう危険性がある。唯一の手段はステーションに宇宙飛行士を送り込んで手動ドッキングをし、直接修理することだった…。

近年はCGを駆使したエンタメ志向の映画作りに取り組み、力作を輩出しているロシア映画。
本作はロシア宇宙開発計画の歴史に残る驚愕のミッションの実話を題材にしたもので、ロシア版「アポロ13」と言える内容だが、ハリウッドの映画文法を取り入れた、話しの盛り上げ方が上手いドラマの秀作だ。

選ばれたのはサリュート計画当初から関わってきた技師ヴィクトルと、既に退役していたパイロット、ウラジーミルの2名。
無事サリュート7号に到着し、無人のステーション内部で彼らが見たものは、内部が氷付けにされ、全ての機能が停止していたサリュートの姿だった。
果たして彼らは、このミッションをクリアできるのか?

主人公は宇宙飛行士2名と地上管制官の3名だが、彼らの演技が素晴らしい。
パイロットのウラジーミルは、地上の生活に慣れず、「グラン・ブルー」の主人公ジャックよろしく、「地上よりも宇宙のほうが良い」というタイプの少しネジが外れた男。
危険な任務だと分かっていても、宇宙に行きたいがため、「俺ならできる」と即決し、相談なしで決めたことを妻に咎められる。
一方の技師ヴィクトルは、間もなく妊娠中の妻が子どもを産もうとしている状況なのだが、頼られるとNOと言えないタイプ。
「電球を交換するようなモノ」と妻に誤魔化して宇宙へ行く。
破天荒な男と愛妻家というキャラクターの対比が面白い。

そして、管制官ヴァレリーは宇宙開発の責任者。
開発のために失った宇宙飛行士たちのことを今も尚、心に残し悔いている。
飛行士たちの命を守るため、常に心を砕き最善を尽くそうとする熱い男だ。

アメリカ映画に見られるピンチの時こそ軽口を叩くような浮いたセリフはなく、自然なセリフや演技が心を打つ。
全体的な共産主義を経験したロシア人は、軍国主義を経験した日本同様に、国や家族を思う生真面目な気質なのかもしれない。

前半の山場は、地上のシュミレーターでは誰も成功したことがない、複雑な回転をするサリュートとの難しいドッキングだ。
技師ヴィクトルの緻密な計算と、管制官の指示で慎重に試みるが、一度失敗。
すると地上と交信が途絶える時間帯に「俺のやり方で」とウラジーミルがパイロットの勘でドッキングを成功させる。
彼の無謀さにはハラハラさせられる。

後半は技師ヴィクトルの活躍。
サリュート内部の氷を溶かし、ショートを防ぐため水分を失くしてから、再起動させようと奮闘する。
しかし、見逃した水分で電気系統がショートし、船内が火災に包まれ、帰りの酸素が無くなるピンチを迎える。

同じ頃、米国がチャレンジャー号の打ち上げを成功させ、サリュートに向かう。
国防省は国の最新技術を米国に奪われることを恐れるあまり、2人の宇宙飛行士を含めサリュートを撃ち落とそうとする。

1人分ならなんとか帰れる酸素量。
このままでは撃墜されてしまうピンチの連続。
ウラジーミルは子どもが生まれるヴィクトルを地球に帰そうとするが、「助かった後、お前の妻子に何と言えばいい?」と断るヴィクトルの友情が熱い。
一縷の望みはサリュートの電気系統を復活させ、酸素供給機を動かすこと。

精密機械の塊のような宇宙船なのに、最後は船外に出てハンマーを使ってソーラーパネルシステムのカバーを太陽が当たらぬ凍った時間帯に叩いて壊すという原始的な方法を用いるところが、なんとも皮肉。
何とかシステムは復旧し、2人は撃墜もアメリカへの情報漏洩も免れる。
酷寒の地の生活の知恵が土壇場で役に立つとはロシアならではだ。

昔のソ連は凄かったというようなプロパガンダ要素が鼻につくのが難点だが、宇宙空間の映像美やドラマチックな展開は素晴らしい。
脚色はあっただろうが、「事実は小説よりも奇なり」という言葉を連想する、実話ならではのリアリティと緊迫感はなかなかのモノ。

知力と体力を尽くして何とか克服しようとする人間の信念と忍耐に見入ってしまう、手に汗握るサスペンスとなっている。
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