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マルクス・エンゲルスのappleraichのレビュー・感想・評価

マルクス・エンゲルス(2017年製作の映画)
4.2
カール・マルクスと生涯の盟友フリードリヒ・エンゲルスの友情を通して描かれる1840年代の資本主義の矛盾と実践的解決策と期待された共産主義誕生の過程を「若さと思想の革命」として生々しく描く。
2時間の限られた時間の中では若きマルクスを中心に描かれるため、原題は『The Young Karl Marx』であるが、後半の人生、特に『資本論』を混ぜると途方もなく時間かかるし、エンゲルスの存在感も半端なく占めているため、この時代に限定した脚本とこの邦題にも幾分正しさがある。
劇中には教科書で読んだ人物が実物として動いていることにまず感動する。無政府主義者プルードンとの交流や、バクーニン、バウアー、ルーゲら青年ヘーゲル派たちとの対立、そして正義者同盟から共産主義者同盟への脱皮、共産党宣言の発布という大きな歴史のうねりは、生々しいこれら一人一人の人間たちの葛藤から生まれたことの映像化に成功している。
産業革命は膨大な労働力を必要としたため、女子子供を悪辣な環境で働かせる。必要なのは優しさや親切心ではなく、生きるための闘いだということもよく伝わる。
映画のメインは正義者同盟を共産主義者同盟へ発展的解消させるエンゲルスの弁舌だ。
語学的にも非常に丁寧な作品で、各国の舞台で各国語を使わせる演出は見ごたえある。
このような映画を作れる監督の経歴に興味を抱いた。
監督/脚本/製作のラウル・ペックは、ハイチ生まれコンゴ、アメリカ、フランス育ち、ドイツで経済工学、映画学校を修め、ハイチ文化大臣に就任、フランス映画学校学長になった人物でこの映画は2017年の作品。
2018年に生誕200周年を迎えるマルクスとエンゲルスの関係を2017年に人間として描く重要性をこの監督は正確に理解している。

「彼らの関係は真の友情や愛情です。裕福な家庭を捨て、究極の犠牲も払って、労働者のために活動し続けたのです。だから、犠牲を払わないアメリカのリベラルとは異なります。現在の若者たちは、人生はゲームや議論ではなく、自分たちが人生において何をすべきかということに気づいていると思います。マルクスとエンゲルスは、裕福だった彼らはその必要がなかったものの、人生を通して我々のために人生を捧げてくれたのです」

マルクス生誕200年、映画「マルクス・エンゲルス」ラウル・ペック監督に聞く
https://eiga.com/news/20180505/1/

世界史的な結果論として科学的共産主義は資本主義に敗れ、中国や北朝鮮などの超支配的強権主義者の手段としてのみ形式的に存続しているのは皮肉だが、それ故、我々は「共産主義」という言葉自体にアレルギーを感じ、亡霊のような扱いをしがちではないかと見つめなおし、共産主義の原点として、あらためて人間として『資本論』を読み返すブームが存在するのも、おそらくこの映画が誕生した背景とどこか通底するように思うのは考えすぎだろうか。
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