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騙し絵の牙のDemoituのレビュー・感想・評価

騙し絵の牙(2021年製作の映画)
4.0
騙し、騙されるというやり合いの物語ではなく、自らの思う事を自らの武器で周到に実行して行く。そこに他者を貶める理屈はなく、ただ己の武器として利用するだけ。

物語の主人公は、恐らく速水(大泉洋)だが高野(松岡茉優)の目線で描かれる。
高野は薫風社という文学としての小説を扱って地位を高めてきた出版社、その小説の部署に務める編集者。
しかし社会では本が売れなくなり、薫風社も出版社として苦しい時代であった。
映画冒頭で薫風社の社長である伊庭の突然の訃報が入る。
社長の不在に対してその椅子を狙う重役達。
そしてタイミング同じくして薫風社のカルチャー誌「トリニティー」の新編集長として入社してくるのが速水である。

薫風社の社長の交代、それに伴い小説薫風は月刊誌から季刊誌へと変更される。
季刊誌になったことで人員削減が生じ、高野は速水の部下として異動することになる。高野はトリニティーを立て直す為にあれやこれや画策するが、その真の目的とは、、、

好きな事を仕事にするということの希望と葛藤、目指す事の為に周囲にあるあらゆるものを武器にする逞さ、その個人の見ているものと個人の見られ方を高野と速水というキャリア、立場という異なる視点から描いたドラマだ。

仕事で求められる事を必要十分にこなした上でさらにあらゆる布石、仕掛けを落とし込んでいく速水の巧みさは痛快で気持ちいい。そこに加えて最後のワンシーンがある事で自分の仕事を他人のせいにしない信念の強さを感じ、非常に好感が持てる。

高野の若さ故の実直さ、好きなモノの為に自分を偽らない素直さ、そして敬い方は様々だが上司の仕事から素直に学び自分に落とし込む逞しさにも好感が持てる。

どちらも自分の信じた道を進みお互いに恨みっこなしでしょうというラストシーンは納得の帰結。

2時間を感じさせないテンポの良さも◎
エンディングに詩がないのも◎
久しぶりに実写邦画の良作にあたり満足だ。

でもこれミステリー?
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