「人間は獣と同じ。自由にすれば過酷な現実が待っているのを知ることになるだけ。結局は苦しむのよ」
疑うことも、怒ることも知らぬラザロの行動規範を俗人の私が理解できるはずもなく、呆気に囚われているうちに、いつの間にか幕は閉じた。
そして狼は、地面に横たわる私の周りを彷徨いて、何度か鼻を鳴らしたあと、やがて静かに去っていった。
それは私に「善人の匂い」を感じたからではない。ましてや私に「正直者の顔」が備わっているからでもない。
何につけ信じる気持ちが薄く、日々過酷な現実に苦しんでいる私が、「搾取する対象」として足りぬことは、狼にだってわかるのだ。狼だって人を選ぶのだ。
「ひざまづいて。ひざまづくのよ」