第71回カンヌ国際映画祭(2018)審査員賞と、キリスト教関連の団体から贈られる独立部門のひとつでカトリックとプロテスタントの組織“SIGNIS and INTERFILM”の審査員6名によって【人間の内面を豊かに描いた作品】に贈られるエキュメニカル審査員賞を受賞したNadine Labaki監督作。
監督のナディーン・ラバキーは主人公ゼインの弁護士役を演じているのだが、書いて良し撮って良し演じて良し、さらに受け答えまで良しという才色兼備の持ち主。
ナディーン・ラバキー
「レバノンに住んでいると、劇中に出てきたような仕事をしている子供たちの光景を日々目にします。レバノンは150万人の難民の受け入れをしているのですが、その影響もあり経済状況が悪化しており、それが最も色濃く、いちばんに影響を受けてしまうのが子供たちなのです。その事実はショッキングで責任を感じましたし、どうにかしなければと思いました。
何もしないということはそれに加担していることと同じです。子供たちがそんな世界に生きなければならない状況を私たちは作っている。その状況に適応してしまってはいけないんです。最近の統計によると10億人以上の子供たちが世界中で何かの権利を奪われています、発展途上国に限らず先進国でも同じ状況です。私にできることは映画を作ること。映画というツールは真に物事の見方を変えられる力を持っていると信じています。
この作品を観て、皆さんの心の中に子供たちが安心して暮らせる状況を作らねばいけない、このままではいけないという気持ちを持っていただけたら少しずつ変わることができるのではないか。すべては子供たちから始まると私は思っています。負の連鎖を断ち切らなければならない、この現状があることに驚いてはいけない、これは私たちが作りだしていることなのだから」
素晴らしい。この答えが全てを物語っている。
これにプラスして町山智浩氏がラジオで本作を紹介している際のコメントを…
町山智浩
「イタリアとかフランスだったりが移民の追い出しというのを掲げている政党が次々と選挙で勝ってしまう。だから結局難民の流入が止まらないわけで。それがそれぞれの国の負担になっていくから、それまでずっとそういう人たちへの同情心があった人たちもどんどんと変わってきて。それで”彼らをなんとか叩き出せ!”って…でも“叩き出せ”って言ったって、シリアでは空爆が続いているんだから。根本的な部分をなんとかせずに壁だけ作ろうとしても……
だからトランプ政権が前にも話しましたけども。僕が実際にアメリカのテキサスにいる難民の人たちに取材をして。それは結局中米のホンジュラスであるとかサルバドルとか、そういったところから逃れてくるわけですけども。そっちの国はぐちゃぐちゃなわけですよ。もうギャングが支配をしてしまって。
それを放っておいて“入ってこれないようにする”って言ったって、それは止まらないわけで。それこそ壁のところに人垣ができてきて『ワールド・ウォーZ』みたいになってしまうだけなんですね。そこの部分が完全に、その国境周辺が非常に治安とかも含めてぐちゃぐちゃになるし。子供はどんどん死んでいくわけですよね。じゃあ、その根本の彼らのもともとの祖国が安定をしていたら、別に彼らはそこを出ようとは思わないわけだから。
そこをなんとかしなきゃいけないんですが。一応、アメリカはレバノンとかに関してはお金をかなり入れています。さっき言った中米3ヶ国に関してもすごく入れているんですけど、お金を入れているだけなんですよ。ただお金を入れたって、全部それはズブズブなんですよ。そうではなくて、政治自体を安定させなきゃいけないんだけども、トランプ政権はそういうことはしない。海外に対して不干渉という、一種モンロー主義みたいなものを唱えているので。とにかくあまりかかわらない。“いままで、かかわっていくことでずっと失敗をしたのだから、かかわらない”ってなっていったんですよ。で、世界中がだいたいそういう方向で行っているんですけど、かかわらなければ難民は止まらないんですよ。
だから国際安全保障っていうと外国の平和とかに対して貢献するっていうことにどのぐらいの意味があるのか?っていうのは、結局自分のところに返ってきちゃうから。難民が入ってきますからね。で、日本は結局そういうことからいまのところ無縁ではいるんですけど、それこそ北朝鮮が崩壊したらどうなるか?“入れない!”って言ったって入ってくるからね。北朝鮮が崩壊したら、絶対に入ってきますよ、それは。それでどうなるのか?っていうこともありますからね。だから本当は自分の国を守ろうとしたら他の国の平和や治安も守らなきゃいけないんだということだと思うんですよね。だから本当に一国平和主義だったりっていうのは、それはちょっと難しい世の中になってきているんだなって…」
「自分の国を守ろうとしたら他の国の平和や治安も守らなきゃいけないんだということ」
この映画を見ると、この言葉が強く深く胸を抉る。他国に干渉するから、こじらすのだという持論をずっと持ってきた自分が無知すぎて恥ずかしいとさえ思ってしまう。
せっかく映画を見て見識を拡げたところで、何もしない自分にも嫌気がさす。なんの為に延々と終わりのない映画の旅路をしているのか?いい加減そろそろ行動に移してもいい頃だろ?と自分に言い聞かす。
さてさて…どうしようか。
もう書くこともないのだが…
印象深いところなどをツラツラと書くので、ここからはスキップしていただきたい。
マイマザーよ…赤ちゃんの前でタバコ吸いすぎだろ?くわえタバコで平気で抱っこしてる母親。この感覚…30年は古い。日本でも当たり前のようにやられてたからねぇ昔は…幼少期の写真を振り返るとオレを抱っこしながら、くわえタバコしてるマイファーザーの写真があるもんな。
まぁ普通なのよね。いまでは考えられないけど…逆に言えば考えられないと思うほど、全国的な意識改革に成功したともいえる。
このようにね、政治などにも参加する意識改革が全国的になされたらいいよね。
本編へ戻る。
赤ちゃんの足に手錠嵌めてるマイマザー。
身動き取らせないため?おいおいそれで、横で薬を潰して服に染み込ませて何をやってるのよ?
こんな親…絶対にヤダ!でも親は選べないからなぁ…そんなんなら産むなよ!と思うのも頷ける。
そういうのに限って、ヤルことしか能がないので子だくさんになりがち。
しかも、子どものすぐ横でセックスする両親。
布切れ一枚で全部聞こえてる…。
もうやだ!こんな生活。まだ冒頭だけど…
○路上
特製ジュースを売る子どもたち。子供が子供を抱っこしながら、さらに商売までさせられてる。
はぁ…胸が痛い。
主人公のZain Al Rafeea演じるゼインと、Cedra Izzam演じる妹のサハル。
ゼイン
「(サハルへ)短パンに血がついてる」
といち早く気づく兄ゼイン。
○トイレ
サハルのパンツを洗ってあげる気遣いの兄。
子どもが子どもの面倒をみなくてはいけない、この環境。戦争孤児レベルだろ?親がいるのにいないようなもん。
○小売店
Tamer Ibrahim演じる店主のアサード。
20代か?30代か?のアサード。この人はプロの俳優なのか?物凄いストリート臭が残ってて抜群に嫌な奴っぽくて最高!
幼いサハルを狙ってる様子。ゲェ…気持ち悪ぃよー。なんだよコイツ。昨日見た『ガンファイター』といい二本続けてそんな話かよ…やめてくれよ!
アサード
「もう少し話したい」
ゼイン
「また今度ね」
と、危険人物から妹サハルを引き剥がす兄。
○自宅
電気もないのかロウソクの火を囲んでの食卓。
それにしても、やたらと子どもの多い家だこと。
子どもをいち戦闘力の頭数に入れてねぇか?
学校に行きたいと提案するゼイン。
母親
「学校に行けば食べ物や服を支給してもらえるわ」
へ?だから賛成?違うだろ?理由が!
父親
「アサードには何て?」
ゼイン
「自分で話すよ。午前中は学校だけど、午後は夕方まで働ける」
母親
「お隣の息子さんを見た?学校からいろいろ持ち帰るわ。マットレスや服が手に入る。ゼインは給食が出るし高級ホテルの食べ残しも持ち帰れるわ。いい事ずくめよ。大丈夫よ。午後はゼインが彼の店でたっぷり働くから」
おい!マイマザー!なんてことを…
テメェはいったい何して稼いでんだ?
働いてる様子ないけど…
○自宅(日替わり)
サハルが化粧をしてドレスを着てアサードの横に座っている。大人同士の会談にゼインはすぐ察知する…賢いねぇ。子どもは子どもと思いがちだけど、親の背中見て十分理解できている。
サハルと共に逃げようと画策するゼイン。
衣類を用意して先にバスの運転手と交渉するゼイン。膝の上に乗せればいいと交渉成立。手筈は整い、サハルを迎えに家に戻ると…
遅かった。すでにクソ母がサハルを連れて行こうとしている。精一杯に抵抗するゼイン。何発も引っぱたかれ、蹴られても、縋りつくゼイン。
さらにクソ父が現れて山賊抱っこでサハルを連れて行く。
クソが!なんだよこの胸くそ悪いシーンは…
結婚という名の人身売買。
現実世界で横行している事実。
受け入れ難き現実。
どうすることもできない無力な自分。
なんだよー!
腹を痛めて産んだ子を、そんな…
奴隷貿易、奴隷売買…人間を家畜として、資産価値があるとして取り引きが行われている。
はぁ…辛い。
○法廷
現在の時間軸に戻る。
クソ父
「娘を貧しさから救うためです。私らと暮らしてたら娘は終わってました。食事も風呂も不十分で、テレビもない。だが結婚すれば本物のベッドで眠れる。毛布もある。食事も…」
日本でもね、昔は貧しさから娘を身売りするということは当たり前にやっていたことだけど…
それは何十年古いんだよ?いまだにというのが…堪らない!
父
「俺だって別の生き方ができりゃ、あんたらなんか屁でもない。外を歩けば唾を吐かれ、動物みたいに思われてる。こんなつもりじゃなかった。”子供を作れ”と言われた。”子供は支柱になる”と。なのに、苦労と屈辱ばかり。結婚を呪うよ。なぜこんなことに?」
おい!ふざけんなよ!テメェ!なんだその言い草は?自分の意志で結婚したんだろうが!テメェで責任もてよ!
○バス
スパイダーマンならぬゴキブリマンのおじいちゃんがゼインの隣に座る。禁煙車なのにバカスカ吸ってて、いい味でてる。
遊園地の目の前で降りていくゴキブリマンの背中を見て、ゼインも降りる。
○市場
Alaa Chouchnieh演じる片目が青く片目が黒い身分証偽造屋のアスプロ。いい感じのハゲかたがモノホン感あっていい。胡散臭さと相まって実在感が凄い。この人も役者か?この人も物凄いストリート臭さを残してて最高!キャスティングが素晴らしいな!
Yordanos Shiferaw演じるエチオピアからの移民労働者ラヒル。
アスプロ
「無料にする方法を教えたろ?ヨナス(息子)をよこせ」
ラヒル
「絶対に手放さないわ!二度と言わないで」
アスプロ
「君の息子はここじゃ生きられない。見つかれば親子揃って追放だ。隠し続けるのか?外も歩けず、学校にも行けない。だが里子に出せば君も堂々と会える」
ラヒル
「息子のことは私が決めるわ。立派に育ててみせる」
アスプロ
「何度も言うが君の息子は死人と同じだ。存在しない。ケチャップでさえ製造日や賞味期限が分かるのに…」
ラヒル
「アスプロ…それ以上言わないで」
移民と移民の子の問題へ。
○ラヒルの部屋
お留守番中のゼインとBoluwatife Treasure Bankole演じるラヒルの息子のヨナス。
鏡の反射を利用して、隣家のテレビを見る。
ゼインが活弁士となってヨナスに聞かせてやる。
クソ優しいなぁ!おい涙が出ちゃうよ。
ゼインの家族、クソ親とのこと、さらには妹サハルの若くして望んでない結婚という名の人身売買、これだけでもうお腹いっぱいなのに、さらにエチオピア人の不法滞在による労働、さらにその移民労働者の子供という、生きていくために身分を隠し続けなければならないという現代の多くの問題を包括的に描く手腕が見事。
サラサラ流れる小川のように見事に主題がいつの間に入れ替わっている。このセンス、チョイス、構成が素晴らしい!全くワザとらしくないし、自然に合流した支流のように…
ゼインという少年を蝶番にして、互いの扉をつなぎながら表してるのが素晴らしい!
○ラヒルの部屋
ラヒルが出掛けたっきり戻らない。
ヨナスが泣き出す。食べるものがないのだろう…
近所で哺乳瓶を持って寝ている子供を見つけると、すかさず盗むゼイン。
ヨナスにすぐ与えるも、母乳の味の違いがわかるのか、飲もうとしない。いきなり他人の母乳に変えたら実際飲まないのかなぁ?味の違いって個体差あるのかしら?でも粉ミルクでも飲むからねぇ…どうなんでしょ?
抱っこしているゼインのおっぱいを必ず触るヨナスがカワイイ!これは演出というよりも性だろうね。
食べるものがないので、氷に砂糖をかけて啜るゼインとヨナス。あぁマックスにひもじいなぁ…
蛇口を捻っても赤い錆が出るだけで水は出ない。
いよいよ…いられなくなり…
近所の子供が遊んでるスケボーを取り上げ、鍋にヨナスを入れてスケボーベビーカーを作るゼイン。さらに、鍋を引っ掛けてカランコロンと鳴らしながら、その鍋を売りに出る。
○配給所
シリア人のための配給所のようだが、レバノン人の身分を隠してシリア人になりきるゼイン。ということは、やはりゼインは難民ではなくて、地元の貧困層ということでいいんだよな…
ゼイン
「前はシリアにいたけど、隣の家の人が僕らを密告した。証拠はないけど、きっとそいつだ。家が砲撃されて、ランボーみたいに這って逃げた」
係の女性
「這って?」
ゼイン
「そう。溝の中をね」
係の女性
「それで欲しいものは?」
ゼイン
「なんでもいいけど、特にミルクとオムツ」
係の女性
「ミルクとオムツ?」
ゼイン
「………あとはラーメンとチップスなんかも」
真っ先にミルクとオムツを言えるゼインくん!
偉すぎる!そしてランボーを出すあたりがまたいい!絶対に知らない世代だと思うけど…
嘘が通り、支給される。
○路上
粉ミルクをそのまま粉の状態でヨナスの口に突っ込むゼイン。それでいけるのか?ヨナスは満足するのか?
○ガソリンスタンド
身体と洋服を洗わせてもらうゼインとヨナス。
優しく手を貸してくれる店員さんたち。
キミたち!その先まで踏み込もうぜ!子供が子供を連れて身体を洗わせてくれって言ってんだから、もっと関わって欲しいけどなぁ…ここは音楽のみでさらりと流されてしまう。せっかく優しい店員さんだったのに…
○薬局
処方箋を洗ってしまったという嘘で乗切る。
またまた薬を使って悪いものを作る。
○ラヒルの部屋
前半に家族みんなで作ってたから、やり方は分る。
薬を潰して鍋に。粉末状になった薬を水に溶いてペットボトルへ。水道水は出ないから海水を汲んできて…
○街中
【トラマドール】を1杯1,000で売り歩く。
tramadol
モルヒネの10分の1の鎮痛効力があるとされ、比較的安全で乱用性は低いとみなされているが、それでも薬物乱用や身体依存は起こりうる。
オピオイド系の鎮痛薬。
これを売り捌き順調に金を稼いだ矢先…
○ラヒルの部屋の前
荷物が外に出され、新しい錠前をされてしまう。
必死にドアを破壊しようとするゼインだが、隣家のババアが警察を呼ぶとかぬかしてる。
しかし追い込むねぇ…意地悪なほど追い込むのねぇ。
いよいよ追い詰められるゼインとヨナス。
○街中
ヨナスを置去りにしようとするゼイン…
ここのヨナスが最高ッ!!つぶらな瞳でゼインの後をヨチヨチ追いかける。
ヨナスの足に紐をくくり、動けなくして立ち去るゼイン。
が結局…見捨てることはできない。
○バス
ヨナスはゼインの顔をポンポン叩いて遊んでいる。この時のゼインの顔が堪らん!なにを思ってこんな顔ができるのよ?この環境に実際に置かれないとできない顔だよ。素晴らしい!
○市場
アスプロを頼るしかないゼイン。
ヨナスを預けるしか方法がない。
アスプロ
「なにか証明書が必要だ。身分証、出生証明書、写真入りの新聞記事。それでベイルートを出られる。もってこい」
ゼイン、ヨナスとの最後の別れ。
この時の顔がまた…もう泣かされてしまう。
なんでそんな顔できんのよ?芦田愛菜級だよ。
頬にキスをして、おでことおでこを合わせてボソボソ何かを伝えているゼイン。
ここは超見せ場なのに、カメラ前を通行人が普通に横切る。普通ならグッと寄って、通行人なんか通らせないと思うのだが、敢えてだろうね。
通行人が平気で通るということで、日常、これが日常なんだよ、日常の中で平気で行われているんだよということを狙ってるんだと…
変に劇的にさせないのが凄いいいと思う。
ドキュメンタリータッチと言われるのは、この辺だろうね。ヨナスの表情も抜群にいいし!
○ゼインの自宅
身分証を取りに戻るゼイン。
部屋では父親が昼間っから寝ている。
テメェは文句ばっかり言って働いてねぇのかよ!
働けボケ!
マイマザーが戻ってきて、今までどこにいたのかと激しく問いつめられる。
しかし子供が多いな…何人いるんだよ。
なんで面倒も見ねぇくせに次から次へと子供産むのよ?中絶できねぇ宗教か?じゃあゴムつけろよ!
親父がキレだす。
親父
「俺に殺される前に出てけ!生まれたことを呪うがいい!早くコイツを叩き出せ!お前を作った俺がバカだった」
オイ!クソオヤジ!
親父
「サハルは死んだ…」
ゼイン
「死んだ?思い知らせてやる」
早い!反応が早すぎる!烈火の如く怒りはピークに!すかさず包丁を握りしめて…
ゼイン
「死ぬべきなのはどっちか」
走って飛び出すゼイン。
○刑務所
刺すシーンは映さず、血で汚れたままの姿で後ろ手に手錠をかけられているゼイン。
○法廷
車椅子で登場するアサード。
判事
「妻の名は?」
アサード
「サハル」
判事
「彼女の年齢は?」
アサード
「11歳」
テメェは何を堂々と答えてんだよ!
ん?待てよ。ゼインの年齢は、誕生日も把握してないんだよね?両親は…。
ゼインは乳歯がないから12歳くらいとか調べてたじゃん!
なぜ妹のサハルは年齢確定してんの?ハナっから売り飛ばすために女のコだけは年齢を把握してたってこと?ゼインは男だから、どうでもよかったってこと?え?そうなの?
判事
「11歳か…11歳は結婚に適した年齢だと思うかね?」
アサード
「僕の知る限りでは…そう思います。彼女は熟していました」
おゲッ!こいつマジかよ?バカじゃねぇの?
ゼイン
「熟すなんて、イモかトマトみたいに言うな!」
アサード
「まさかあれで死ぬとは思いませんでした。近所じゃあの歳での結婚は普通です。義理の母も同じ歳で結婚してるけど、元気でここに来てる」
判事
「結婚後、どのくらいで妊娠を?」
アサード
「2〜3ヶ月です」
判事
「正常だった?」
は?そんなわけねぇだろ?何聞いてんだよ?
そもそも異常な奴に正常な判断ができるわけがない。
アサード
「最初は正常でしたが、あるとき大量に出血しました」
判事
「その後なにがあった?」
アサード
「病院に運び込んだけど、玄関先で亡くなった。診察を断られて…」
ゼインの弁護人
「なぜ断られたんですか?」
母
「身分証がないから」
なんで身分証がないの?この人たちも不法移民ってこと?
母
「(感情的になる)こんなに苦労してる渡しを裁くなんて!どんな暮らしをしてるか考えたことある?一度もないでしょ?この先もないわ!あなたなら首を吊るわよ!子供の食べ物がなくて、砂糖と水だけのことも!子供を生かすためなら喜んで罪を犯すわ!誰にも私を裁く権利はない!値を分けた子よ!わかった?」
泣きながら訴えてますけど…あんたたち何もしてないじゃん!苦労してる描写が一切ないから、あなた方に感情移入はできません。
子供たちばかり働いて、キミたちはセックスしてるだけやないの…昼間から寝くさってるし…
こういう人に限って被害者意識が高くて、自分は不幸の代表みたいになって、感情的に口からでまかせでポンポンと能書きを垂れる。
○刑務所
同じ刑務所?留置所にいるゼインとラヒル。
二人は映るのだが、二人は互いにここにいるとは気づいてない。
この辺もね限界まで焦らして、見てる側をヤキモキさせるのがうまい演出。サッと簡単には会わせない。これがまた画面に釘付けにさせる効力を持っている。
○牢屋の中
同じ獄中の人たちがイスラム教のお祈りをしてる最中、ゼインは退屈そうに眺めてるだけで参加しない。
アナウンス
「ゼイン・アル・ハッジ移送の準備を」
名前に反応したラヒル。
ゼインを呼び止めようと必死に声を掛ける。
○取調室
ゼインとラヒル。
ゼインがアスプロの人相を答えている。
○刑務所の面会室
母が面会に来る。
母
「飴とビスケットを持ってきたわ。食べて。」
すごい顔して見つめるゼイン。
母
「なぜそこまで私に腹を立てるの?仕方なかった。ワタシも娘を亡くしたのよ」
ゼイン
「何しに来たの?」
母
「神は何かを奪っても贈り物を下さるわ」
ゼイン
「どんな贈り物?」
母
「妊娠したの。弟か妹が生まれる」
ゼイン
「(涙を浮かべながら)胸が痛い」
母
「女がいいわ。サハルと名付ける」
ゼイン
「心にナイフが刺さったみたい」
母
「出所する頃には、きっと歩いたり遊んだりしてるわ」
ゼイン
「もう顔も見たくない(立ち上がり)心がないのか?」
飴とビスケットの入った袋をゴミ箱へ投げ捨てて、立ち去るゼイン。
いやぁすごいシーンだぁ!
○少年刑務所
刑務所の電話から、テレビの生中継でゼインが出演する。
キャスター
「なぜ電話をくれたの?望みは何?」
ゼインの声
「両親を訴えたい」
キャスター
「生放送だよ。言いたいことは?」
ゼインの声
「大人たちに聞いてほしい。世話できないなら産むな!僕の思い出は、けなされたことや、ホースやベルトで叩かれたことだけ。一番優しい言葉は”出ていけ!クソガキ!”ひどい暮らしだよ。何の価値もない。僕は地獄で生きてる。丸焼きチキンみたいだ。最低の人生だ!みんなに好かれて尊敬されるような立派な人になりたかった。でも、神様の望みは僕らがボロ雑巾でいること…」
○法廷
ゼイン
「お腹の子も同じ目に」
判事
「両親への要望は?」
ゼイン
「子供を作るな」
判事
「大きな声で」
ゼイン
「子供を作らないで!」
判事
「"子供を作るな"?」
ゼイン
「そうです」
判事
「これ以上は作らんだろう」
ゼイン
「お腹にいる子は?生まれるでしょ?」
小川直也級の鋭い眼光で両親を睨みつけるゼイン。
○アスプロの部屋
警察が踏み込み逮捕されるアスプロ。
倉庫に閉じ込められた人たち。
そこにヨナスの姿も。保護されるヨナス。
○空港
ヨナスと再開するラヒル。
子供を大事にする母と、そうでない母の対比がエグい。
○写真撮影
カメラマン
「身分証だぞ。死亡証明書じゃない。そうだろ?」
ニコッと最高の笑顔のゼイン。
フラッシュが光りエンド。
5億点!