ベルサイユ製麺

西門に降る童話のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

西門に降る童話(2017年製作の映画)
3.0
ボロいズックに小汚いコートとズボン。
髭面で長髪を帽子で押さえ込んだ、お世辞にも綺麗とは言えない身なりの細身の男。
幼い少女の前に立ち、徐ろにコートを開き、その中を見せつける!
たまたま通りかかった若い女性が慌てて手近にあった棒で男を撃ち伏せる!
仰向けに倒れ込み、天を仰ぎ笑い出す男。コートの中には、手作りの(ふつうのね!)おもちゃがいっぱいぶら下げられている…!
若い女性はその様を見る事もなく、少女の手を引き逃げ出した。少女の手には竹とんぼ。
…何それ?
「あの人に貰った」
少女の竹とんぼはゆっくりと舞い上がる。
カメラが上がっていくと、見渡せるのは台北、西門の街…。

タイトル
『西域童話 The Mad King of Taipei Town 』

この流れは凄い好き!期待感!!
この作品は、以前レビューした台北発メトロシリーズのうちの一本でして、台北発云々てのは→以下コピペ《台北発メトロシリーズは全7作品で構成され、台北のMRTの駅を舞台にその土地の歴史や文化を盛り込み、プロデューサーの葉天倫(イエ・ティエンルン)と5人の新鋭監督による7つの愛の物語を綴った作品群である。》のだそうだよ。

先程のルンペンチック(マズイ表現かもしれませんが、コレがしっくりくる)な男は、通称キング。西門の街を根城にしている。 無口で、行動が読みにくい。時折街の開けた通りに躍り出て空を仰ぐと、バラバラと紙幣が舞い散るという奇跡の男!
キングの正体は誰も知らない。元スパイで、投獄されて気が狂ったとか、株で大儲けしてすぐ破産して狂ったとか、元から狂ってるとか、皆口々に好きな事を言う。

ファーストシーンで手を引いて逃げた若い女性、小虎といいます。友達のブティックを間借りして客の希望に合わせたスタイリングをする事で口を糊している。母子家庭。母はフィリピン系(って言ってた気がする…)。昔は本当に優しい母だったが、今は毎晩の様に遊びまわり、いろんな男に色目を使い、小虎から金を無心する。警察官の彼氏が居るが、どうも浮気してる様な気がする…。
基本的にはこの二人のお話です。それから、なんか新喜劇みたいなヤクザがキングの隠し持ってるらしい大金を狙ってたりしたかな…?

…この映画、ストーリーがものすごくグニャグニャしてる!
キングは基本狂人じみてるのでやむを得ないのですが、小虎の方まで何をどうしたいのかよく分からない。ストレートな恋愛モノなら一目瞭然で二人がくっつくのがゴールなんだけど、このお話はゴールがよく分からない。…最後まで観ても!中華系作品にはままある事ではあるのですが、エンタメ系以外だと結構キツイすなぁ。
流れ的には、
⚫︎キングの過去と秘密が判明
⚫︎母と向かい合う小虎
⚫︎小虎と二股彼氏の別れ
⚫︎キング・小虎とヤクザの対決
…みたいな感じで推移して、何故か急にファンタジー的な真理描写を盛り込みつつ、結果テレビ版エヴァの最終回みたいな雰囲気で終わりましたな…。むう、ちょっと自分には合わなかったかなぁ。
とは言え、このシリーズの見どころは何と言っても台北の街並みです。
西門の街の通りは、歌舞伎町コマ劇前とか渋谷宇田川角海老(おい!)辺りみたいな雑多で活気溢れる感じ。
少し路地に入れば煉瓦造りのビルのシャッターや鉄扉にグラフィティが書き殴られ、伝統と流行が同居している極めて健全なストリートであることも伺えます。
雑居ビルの長〜い非常階段のすぐ側に琉球風の大きな瓦屋根が見えるシーンなどは想像力をすごく擽ります。
街にネオン管が多用されてて、小さなビルの屋上で赤いネオンに照らされながら街を見下ろすシーン、鉄コンの宝町かと思いましたよ。
特に印象なのは、(街並みでは有りませんが)キングが根城にしている焼け落ちた映画館。実在なのか、セットなのか不明ですが、天井と片側の壁が無くなった廃墟から徐々に原生林みたいな草っ原に変化していく奇妙なロケーション。そこにカラフルな玩具やゲーム筐体、プラスティックの家具が雑然と並べられています。コレは誰かの脳内なのかしら?とても魅力的!住みたい!…と思ったけど、ムカデとかガンガン入ってくるんだろうなぁ…。死ぬな。
あ!猫ちゃんが歩いてました。台湾映画、猫よく出るきがするなー。ネコネコメーター1🐈。

という感じで、映画からは特に異国情緒をこそ感じたい!という方にはおススメです。なんか独特の人懐っこさがあってリラックス出来ます。…ストーリーも大事!という方には、同じメトロシリーズの『この街に心揺れて』の方が、だいぶおススメしやすいかな。
…さあ、シリーズ2/7本観れましたよ⁈
これはTSUTAYAには引き続き仕入れ頑張ってもらいたい。たとえ“貸し出し回数一回”だったとしても…。