zawa

ある画家の数奇な運命のzawaのネタバレレビュー・内容・結末

ある画家の数奇な運命(2018年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

私好きだ!この映画。
3時間あるのに2回も観てしまった。笑

原題:werk ohne autor
(work without author)
英題:Never look away
どれもある意味しっくりくる。

今、どこにも何にもしっくりこない私にとってこのタイミングで映画に出会えたことはとても幸せなことだと思う。

私には、信じてる何かというか、
どう考えても、いや考える余地がないくらいに”コレ”だと思う何かがある。
もう知ってる、みたいな。
私の中に何かを発見した感動と、
生まれた時から知ってる安心感が
2つ一緒にいてくれる感覚が、
私以外の”それ”に何かしらの形で
触れた時にやってきてくれる。

この映画を観た味もまさにそう。

主人公のクルトは、
悩んだり苦労したりもしていたけど
芯の部分では全然揺さぶられてないように見えた。

歯を食いしばりながら「今に見てろよ」
と階段掃除をするのではなく、
大切なものを落とさないように
ゆっくり、でも確実に階段を
登っていたように見えた。

そして彼の中にある “真実” の
イメージを、どう筆を動かして
現実に投影したらいいかを
教えてくれる美大の教授や友人。

「私は何を知ってる?」
「私の人生で何を感じた?」
「私にとって偽りのないものは何か?」
…それが原体験だ。

「どんな現実も何かと一致する」
「真実はいつも美しい」
「決して目を逸らさないで」

当たり前のことなんだけど、
私たちは自分が見て、聞いて、
知ってるものしか知らない。
私たちはそれでしかない。
そうじゃない何かに憧れたり
そうじゃない何かが社会的に
評価されてると、その何かにどうにか
自分を近づけようとしたりする。

それが悪いことでもなんでもなくて
それを望んでるのも自分なのだから
そうやって自分をつくっていくだけ。

その何かになろうとする中でも
感じる何かはけど自分でしかなくて、
よりその影を濃くしてくものだったり。
現代アートに手をつけたクルトを
客観的に見ててそう思った。


クルトは自分の中の真実に気づいて、
それを求めて、守って、
どんなにゆっくりだろうと
一緒に歩いてくということだけは
やめなかった。

頭の中がファンタジーと
思われるかもしれないけど、
私はそうやって自分の中の
真実を大切に、美しく表現する人には
時間はかかるかもしれないけど
現実は応えてくれると信じてる。
見てくれてる人は見てくれてて、
必要な偶然はスタンバイしてくれてると思ってる。

「何も生み出してない瞬間はない」
と、言われたことがある。

目の前のコーヒーカップが動かなくても
日曜の夜の人々のため息に
のまれそうになろうとも、
そこに何を見出して1分、1秒後の
自分にどんなバトンを渡すかを
決めるのは他でもない自分だ。

そんな風に自分という映写機を選んで、
人生という物語にただ生きる。



クルトのように
自分の目で見たものをぼやかして見て
また焦点をあててみて、
そしてなぜか忘れられなくて
頭から離れてくれない心地よさとひっかかりと、そのシーンを大切にしたい。

そして全く違うレンズで、
全く違う形をした他の誰かの
そのシーンも見てみたい。

それは、私のそれとは違くとも同じもの。
どんなに不格好に見えても
愛おしいものだということを知っている。

私にとってはそれが芸術で、
私がやりたいことでもあるな。

そして、始まりの「ラ」の音♩


2020.11.08.
zawa

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