悠

グリーンブックの悠のレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
3.5
観る前からテーマ的にアカデミー賞取りそうだなって思ってた作品です。
白人と黒人のハートフルストーリーってわけではないですが
このテーマはアメリカの賞レースには強いですね。

白人って言ってもイタリア系で珍しいなって思いました。
多分英語を母国語としない白人は白人の中でも色々あるのではないかな。
そして言わずもがな黒人は差別対象。
金の為とは言えよく引き受けたなと思います。
それにしてもジム・クロウ法が生きてる時代に
よくディープサウスに演奏旅行を決めたなって思います。
正直、殺されても仕方ないくらいに酷い時代です。
もちろん、黒人だけじゃなくて我々日本人も有色人種なので
この法律は適用されるんだけどね。

劇中で「差別が酷いと分かってるから行った」みたいなことを
ドンが言ってましたが凄いとしか言いようがない。
黒人なのに金持ちとか、貧乏な白人に囲まれたらマジで殺されるわ。
だからこその用心棒なんだけどね。
ハラハラするシーンが沢山ありました。
トニー暴力じゃなくて、ドンの行動に。
ジョージア州の服屋に入っていったドンが凄い。
いや、絶対無理だって。
叩きだされたり、通報されなかっただけマシと言うか、
悪法の終わりかけってのを感じました。
白人専用のレストランとか普通だし、
そこで演奏するのに「伝統として」黒人は食事できないとか。
アメリカの言う伝統とか鼻で笑いますけど、しかも差別的な要素だし。

白人であるトニーが簡単に暴力に訴えるのに対して
あくまで「礼儀正しく、高潔である」事を第一としたドン。
それはお金の有無ではなく、黒人はどうしたってバカにされ、
見下されるから暴力に頼らない、毅然とした態度でいる事が
最終的には一番自分の尊厳と身を守ったのだろうと思います。
味方になってる白人だってきっと「黒人の割には賢い」とか思ってるでしょうね。
白人ってのはそういう生き物です。
今はまだマシかもしれませんがw

ドンは本当に様々な屈辱を経験し、
それでも笑顔できっちりと演奏をしていた。
言葉には出さなかったけど、表情に感情が漏れていたのが凄かった。
本当は怒り狂いたいんだろうけど、
騒いでも不利になるのは自分なんだよね。
その代わりにトニーが前面に感情を出していて凄く良かった。

ホントにね、突然逮捕されるんですね…
それが数週間の南部滞在ののち北部に戻ってきて
「常識」みたいな感覚になってた二人に
最後に警察官に止められた時
「タイヤがパンクしてるよ」と親切にされたことに安堵する二人が
何とも言えないですよね。

「孤独なのは仕方ない」と言って割り切って、
諦めていたドンが最後にクリスマスを祝う為に
トニーの家に行ったのが良かった。
クリスマスは家族で過ごすもの。
そこにドンを呼んだというのはトニーが家族だと思ってるってことで
それを勇気を出して受け入れたドンの関係は
じんわりと心み沁みていく良さだと思います。

淡々と当時の事実を織り込みながらの構成は
大人のロードムービーだと思いました。
「白人の救世主」って批判もあるそうですが、
当時、白人が力を貸さないと救えなかったのは事実としてあるので
仕方ないのではとも思います。
黒人が何人集まっても警察の差別的な判断は覆らないのは現実。
トニーはチカラではドンを守っていたけど、
精神的には水と油ながら対等な関係だと思いました。
悠