アキラナウェイ

足跡はかき消してのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

足跡はかき消して(2018年製作の映画)
3.7
これも1つのNOMAD LAND。

どうしたって馴染めない。
街の中では暮らせない。
彼らが住処(すみか)としたのは森の中。

イラク戦争のPTSDに苦しむ父ウィル(ベン・フォスター)は娘のトム(トーマサイン・マッケンジー)と、人目を避ける様にオレゴン州の森の中で暮らしていた。しかし、彼らはは警察とパーク・レンジャーに発見され、福祉局の管理下に置かれる事になってしまう—— 。

削ぎ落とされた台詞。
抑制された演技。
描かれないからこそ際立つ、
ウィルの心に戦争が残した傷跡。

ベン・フォスターの静かな演技から、心の機微を感じ取る。娘トムを演じるは「ジョジョ・ラビット」「OLD」と話題作への出演が続くトーマサイン・マッケンジー。

悪夢に魘(うな)される日々。
木漏れ日が漏れる、緑の森の中で。
その静寂の中でだけ、
彼は眠る事が出来る。

福祉局の人達の目には異常な父娘に映っただろう。人並みの暮らしが出来る様にと住居を提供してくれるが、彼らにはそれが=幸せではない。

そしてまた、足跡はかき消して、
彼らは森の中へ。

しかしだよ。
娘もいつまでも父親とは付き添えない。
自分が身を置くべきコミュニティを見つけ、其処に留まりたいと申し出る。 

父親だって解っている。
自分の病気を理由に娘の人生を台無しにしてはいけない事を。

だから。

悲しい幕切れ。
何が辛いって、
何も解決していない事。

ふと「おおかみこどもの雨と雪」を思い出した。狼として暮らすのか。
人として暮らすのか。
家族でも、同じ道を歩めない。

タツノオトシゴは貞節で、毎朝顔を合わせてつがいの絆を深める。そんな風に暮らして来た父と娘なのに。

遣る瀬無いなぁ。
静かに沁みる。
これも1つの反戦映画。