Fitzcarraldo

暗数殺人のFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

暗数殺人(2018年製作の映画)
2.8
実話を基に再構成した物語で韓国映画界最⾼峰の栄誉と云われる第39回 青龍映画賞(2018)脚本賞を受賞したキム・テギュン脚本監督作。

共同脚本にカク・キョンテク。

ナ・ホンジン監督の『チェイサー』(2007)で⻘⿓映画賞主演男優賞など多数の賞を受賞して一躍スターダムの仲間入りを果たしたキム・ユンソクが、誰も見向きもしない過去の事件を懸命に掘り起こす刑事キム・ヒョンミンを演じる。

…のだが。『チェイサー』で元刑事の出張マッサージを経営している男と同じ役柄というか…延長戦のような役柄で、既視感しかない。冒頭から既に新鮮さが損なわれてしまっている。

どうしてもチェイサーの衝撃が強すぎて、頭の中からその印象が消えないために、他の役が霞むと云えばいいのか…無意識に重なってしまう。

なのでキム・ユンソクをキャスティングしない方が良かった。

役柄も似ている上に、ユーモアを失ってしまっているので魅力が半減してしまっている。元刑事を活かしながらハチャメチャやる男に対して、警察組織の中で小さくまとまってしまっている。

過去の事件をしがみつくという点では、周りの刑事とは逸脱しているが…それだけでは弱い。

なぜキム・ユンソク演じるキム・ヒョンミン刑事は、この事件に拘るのか?自分が定年したら、出てきてしまう。そしたらまた殺人を起こすだろうから云々と言っていたが…もうちょっと個人的な考え方で拘りを見せてほしかったような…

暗数事件なんて他にも山ほどあるんだから、チェ・ジフン演じる殺人鬼カン・テオに拘る個人的見解があってよかった。

逆に殺人鬼カン・テオもなぜ、キム・ヒョンミン刑事に拘り続けるのか?このあたりを明確にしてほしかった。

説明はしてるんだけど、ヌルっとしてる。
いまいちバシッとハマらない。

【暗数】あんすう
dark figure; Dunkelfeld

→現実に発生した犯罪のうち,犯罪統計では把握されない犯罪数をいう。一般には警察が認知した犯罪数を「犯罪発生数」とみなすが,厳密にはそれは「犯罪認知件数」にすぎず,被害者にも気づかれずに終る犯罪や,気づかれても警察に届け出がなされない犯罪も多い。真の犯罪発生数を統計的に正確に把握することは不可能であるが,暗数調査により犯罪の実数を推定する研究が行われている。


犯罪発生数からこぼれ落ちた事件にもならない事件は何件あるのだろうか…

ここ日本では文春砲ばかりのスクープが目立ち、他の報道機関や警察機構は何も機能していないようにも感じてしまう。

そして過ぎ去った事件にもならない事件には誰も関心を示さない。

そこらへんにもグイッと食い込んで欲しかった。もっと警察組織とも戦って欲しかった。現実では個人ひとりが立ち向かったって勝てる相手ではないのだから、せめて映画の中くらいは、独りでもガンガン立ち向かって欲しかった。

異動命令に従順に従うのではなくて…

とにかくキム・ユンソクの無駄遣いというか、使い回しというか…新しいことをさせてあげたかった。キム・ユンソクも脚本読んで、同じような話なんだから断れば良かったのに…


殺人鬼カン・テオを演じたチェ・ジフンは滅茶苦茶カッコよかった。

○面会室
カン・テオにタバコを差し出すキム・ヒョンミン。

物凄い美味そうに一服するカン・テオ。
これこれ!この顔!久しぶりにタバコを吸った時の得も言えぬ至福の瞬間…いい顔しやがる。

禁煙して久しいので、すっかりこの感覚を忘れていたが、これを見て湧き上がるように思い出す。
そして…また吸っちゃおうかなぁという誘惑が起こるほど、最高の表情をしてくれます。

ちょいちょいとキム・ヒョンミンに見せるドヤ顔も素晴らしい。大袈裟でなく、サラリと瞬間に挟む表情が素晴らしい。これを大きくやってしまうとイヤらしいのだが、このさりげなさがいい。

しかし、結局はカン・テオは捕まっている立場なので、嘘と誠を織り交ぜていくら撹乱させようとしたところで、二人の対決する構図がどうしてもイーブンにはならない。

しかも暗数の事件に、キム・ヒョンミンは拘るけれど、見てる側からしたら、誰だかもわからない埋れてる事件を捜査したところで、もともと暗数事件なので、どうしても興味がわきにくい。

感情にリンクしていかない。

ワイドショーなので、事件の報道を流し見するのと変わらない感覚。我々は見て見ぬ振りをするのになれてしまった。全ての殺人事件に、いちいち引っ掛かっていたら、心もカラダもモタない。

しかし、これが自分ごとになってくると一変する。途端に身近な事件になるし感情が蠢き出す。

映画では誰かに感情移入することで、見て見ぬ振りをすることに慣れ切った心を動かしたいのだが、本作はワイドショーの域を出られなかった。


お墓の近くから発見された白骨死体から子宮内避妊器具が発見されて、捜査が進展する。

通称リングと字幕には出ていたが、現在ではIUDに統一されたとか。

こういうモノがあることすら全く知らなかったので、またひとつ勉強になりました。

これをやってる人いるのかな?そんなこと聞いても言わないだろうけど、どんな感覚なのか聞いてみたい。聞くこと自体が失礼か…

しかし、白骨死体が見つかってDNA検査を出した時には、この避難器具はなかったと先生…
あとで白骨死体の写真を見てキム・ヒョンミンが気付くのだが…

あのさ…これ白骨死体を発見した時には誰も気付かなかったんですか?写真には写ってるのに、その時現場にいた人は誰一人として、その物体をスルーしたの?それは、おかしいでしょ?

そのモノが子宮内避妊器具と、その場で判明しなかったとしても、そこに何かあるのは誰が見ても明らかでしょ?!

それを見過ごすというのは、あり得ない。

現場で見過ごしたモノを写真だけで、気付くといのも些か強引かと…


とにかく全編にわたりチェイサーの二番煎じの様相が強い。チェイサーおもしろいからね、あれに憧れてやりたくなる気持ちはわからないでもない。
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