チーズマン

ウエスト・サイド・ストーリーのチーズマンのレビュー・感想・評価

4.4
とにかく目が幸せな、贅沢な映画でした。


倒れた非常階段から始まり、やがて再開発で消える街の瓦礫の山の上で威勢よく歌い上げるジェッツの雄叫びが力強さと虚しさの、なんとも重曹的に響いてくるあの序盤の一連の流れで一気に掴まれてしまいました。

スピルバーグ、ほんと達者ですなあ、、、、

個人的には61年のロバート・ワイズ版(も素晴らしいですが)よりも好きになりました。

ざらついた画面に土や埃が舞い灯りまでも表情を変えて、とにかく動きと躍動感がありました。
中盤のダンスパーティーの場面の煌びやかさには今思い出しても見惚れてしまいます。
しかも、映画全編を通してジェッツとシャークスの対立がそれぞれの色使いで線を引かれたように分かれていますが、唯一このダンスパーティーのシーンではその色合いが混ざってきれいな虹色になるのがすごく良いんですよ。
それが相手側への対抗意識だとしても明らかにその場の全員が“普通の若者として楽しんでいる”瞬間なんですよね。

だからもしかしたら、本当はお互いに共有できる何かがあったかもとかすかな希望を思わせながらも、トニーとマリアの運命の出会いによって終わるという美しくも儚いダンスパーティーでした。


しかし、あらためてこんな哀しい話だったっけと思ってしまうぐらい観終わってから重く響く作品でした。

この悲劇を防ぐためにあの時こうなっていれば…と、つい何度も思ってしまいながらも、そうすると結局1つ前の因果に戻るしかなくて、それを繰り返し遡っていけば最終的にはやはりあの2人が出会ってしまったから…ということに尽きるのが非常に切ないです。

対立し、歪み合い、それを暴力で解決しようとする事がどれだけ虚しい結果を生むのかを観客に目撃させる映画でした。
しかし同時に、その悲劇と引き換えにしても愛を肯定する強さもあり、この裏表の感動をしっかりと今作も引き継いでいるところは、あの名作のリメイクとして素晴らしい出来の作品になっていると思います。
チーズマン

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