小松屋たから

キャッツの小松屋たからのレビュー・感想・評価

キャッツ(2019年製作の映画)
3.6
傑作か、怪作か。「ライオンキング」実写版では、動物たちが人間の言葉で会話することに段々と慣れていったけれど、この作品では「猫人間」(いや「人間猫」?)」に対する違和感は最後まで拭えないままだった。

舞台版は何回か観ているので、この作品ではドラマ性の薄さやキャラクターの掘り下げが重要ではないことは知っていた。様々な猫が自分の境遇を順に歌っていき、最も純粋な魂を持つと認められた猫が天に召される、という単純な物語で、そこに人間の生き様を無理やり投影したり共感したりすることは難しい。そこが、「サークルオブライフ」という哲学を持つ「ライオンキング」と異なるところで、「キャッツ」は、あくまで舞台で曲とダンスを楽しむショーなのだ。

今回の映像化の技法は斬新で驚いたが、でもここまで舞台の台本構成を忠実に再現するなら、ブロードウェイや劇団四季の舞台を複数台のカメラで収録しても同じことになる。

舞台では、お客さんとの共通理解、共犯関係の上で世界観をともに造り上げられるが、この映画ではスクリーンという演者と客席の間に決定的な障壁がある中で、あらゆる角度から初見の不思議なクリーチャーとその群舞を割と引き気味の第三者視点と急なクローズアップの反復のみで見せられることになるので、個々のキャラクターへの親近感が得にくく、せっかく映像であることの利点を生かしきれていなかったように思う。

映像化の努力は舞台装置やコスチューム、VFXではなく、舞台では描き切れない各キャラクターのより深い背景描写、ドラマ性に費やした方が良かったのかもしれない。

でも、とにかく、チャレンジ精神には溢れていたし、今までに無いものを見た、ということは間違いない。またそもそもロイド=ウェーバーの曲が、今となっては古い歌謡曲調ではありつつ耳障りが良く、バレエを基軸としたダンスも見応えがあるので、最後まで飽きることは無かった。

これは、歴史に残る「カルト映画」になるかも・・