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キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのdramaticgasのレビュー・感想・評価

5.0
御年80歳の巨匠マーティン・スコセッシが、その映画パワーを惜しみなく注いで作り出したアメリカ白人男性の原罪ムービー。

暴力のカリスマ性を具現化することでキャリアを築いてきたスコセッシが本作で選んだのは、暴力の醜悪さと愚かさを白日の下に晒すことだった。その意味で本作は、スコセッシ自身の原罪を贖うための映画でもあると言える。

偶然手にした石油によって巨万の富を手に入れたオセージ族が、その石油のために際限なく富を求め続ける欲深い白人によって、暴力的にすり潰されていく。オセージの人々と共に(作中でも要所要所で描写される)美しく豊かなオセージの文化も殺され、失われていくのは人類史の大いなる損失であり、ただ悲しい。(だからこそ、エンディングで少し救われた気になってしまうのだけれど)

でも本作で語られるのは、あくまでアメリカ白人男性の暴力の物語であり、彼らの愚かで醜悪な性質なのだ。運命と叔父に流されただけのように振る舞い、自分でもそう思い込んでいるかのようで、その実自分が信じたいものだけを信じているだけなアーネストの愚かさ。無敵の悪の象徴のようでありながら(オセージの人々にとってはそれはもまた真実だが)実は単にアメリカ白人男性の(巨大な)アドバンテージに守られているだけの支配欲に取り憑かれた凡人でしかなかったヘイルの醜悪さ。レオナルド・ディカプリオとロバート・デニーロの凄まじい演技力により本物以上にリアルに具現化された彼らが、本当に存在し、彼らの存在を世界が許したという事実に絶望し、ハートが震えた。