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キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのtubameのレビュー・感想・評価

4.7
これはもう滅茶苦茶好き。それに尽きる。スコセッシの作品は基本的に好きだけど、その中でもかなり好き。凄く良かった。


オクラホマを舞台に、オイルマネーによって裕福になった先住民のオセージ族と移住してきた白人たちとの間で繰り広げられる愛と欲望と恐怖の物語。次々に起こる先住民たちの怪死...淀んだ空気が最初から立ち込めている。実話を元にしたサスペンスだが、上映時間は206分の長尺(ゴッドファーザー PARTⅡクラス!)。
しかしながら圧倒的な完成度でスクリーンに釘付け。昼食後の眠気の心配など全くの杞憂に終わった。


最大の見所は豪華俳優陣による重厚な芝居だろう。
心の底では見下し、先住民たちをただの資産としてカウントしながら親しげな顔で隣人として振る舞う残忍なヘイル(ロバート・デニーロ)もおぞましく恐ろしい存在だが、やはりディカプリオのアーネストが素晴らしい。恐らく今まで観てきた彼の役の中で最も愚かでどうしようもなく弱い男だ。
先住民モリーと結婚したアーネスト。
二人のやり取りや子供に対する態度、アーネストが女好きの設定なのに他の女性の陰が見えないことを鑑みるに、最初は損得で近付いたが愛は芽生えたのだろう(何よりあの性格からしてずっと演じるような芸当が出来るはずもない)。しかし愛があっても、彼は簡単に凶行に走ってしまう。叔父の言うことは絶対→だから言うことを聞く、という驚くほど単純化された図式に見える。
アーネストは深く物事を考えることをしない。常に刹那的に生きている。
普段の家族との生活と、悪事の時間はそれぞれ分断され並行して存在している。
だからどちらのアーネストも本物なのだ。このあたりディカプリオの芝居が本当に巧みで、小物感が生々しい。


凛としたモリーの佇まいも印象的だった。賢い彼女はずっと前からアーネストの裏切りに気付いていたけど、それでも夫への深い愛がその裏切りさえも受け入れようとさせる。その姿はあまりに悲しく辛い。
最後の二人の対峙は最大のクライマックスと言ってよく、観ているこちらもスクリーンの前で息を呑んだ。
いかようにも捉えられる場面だけれども、個人的は家族を失いたくないと思ったアーネストの弱さが出たと解釈している。しかしその弱さは断絶を決定的なものにする...


本当に素晴らしかったのだけど、言葉にしようとするととても難しい。
確実に言えるのは、IMAX絶対オススメだよ!!ってこと。劇中の音もいいのだけど、個人的にはエンドロールの時間が素晴らしくて。醜い人間たちの姿をここまで克明に見せてきながら、人間が絶対に抗えない大いなる自然が最後に全てを包み込んでいく。特に夫婦が出会った頃を追想させる嵐の音にぐっと来た。過ぎさるのを待つしかない... 
待っていれば悪意ある者たちに奪われてしまったオセージ族の魂はやがては元のところに還ってくるのだろうか...
本当隙がないというか、エンドロール込みで作品というのを身をもって実感した。206分の物語を噛み締める時間。本当震えるほど良かった。
配信だとここ皆観ないんだろうな~勿体無い...。ここは是非いい音響の映画館で座って味わって欲しい。
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