Eike

UFO -オヘアの未確認飛行物体-のEikeのレビュー・感想・評価

3.2
アメリカ、シンシナティの空港で日中、多数の乗客・利用者がUFOを目撃。
管制塔のスタッフも事態を把握するのですが、当局の意向により隠ぺいが図られます。

シンシナティ大学で数理科学を学ぶ、デレクはたまたまTVで見かけた空港でのUFO目撃のニュースに興味を持ちます。
そしてネット上に流出した管制塔の通信記録が捉えた謎のノイズに含まれる「情報」の解析に寝食を忘れる程のめり込んでゆきます。
周囲の友人たちとの関係や学業を犠牲にしてまでもこの謎にとらわれる彼には幼少期に体験したある出来事の影響があって...。

如何にもアメリカの低予算インディー作らしいSF作品。
ただ、このタイトルとミステリアスな導入部分の印象から過剰に期待して鑑賞すると肩透かしを食ったと感じる方が多くなりそうな気配も。
というのも本作は確かにUFOテーマのSF映画であり、政府による隠ぺい工作といったお馴染みのサスペンス要素も盛り込まれているのだが実際にはかなり微妙なニュアンスの作品に仕上がっているからだ。
この設定とは裏腹にスペクタクル要素はほぼ皆無。
肝心のUFOについても、うすぼんやりとした影のように描かれるのみである。

では低予算の見かけ倒しの作品なのかと言えばそうとは限らない辺りが映画の面白いところ。
本作のストーリー自体は主人公がUFOから発せられたと思わしきノイズに秘められたメッセージを解明する過程を描いているだけと言えるのだが、理系の主人公がその知識をフルに使って真相に迫る描写には知的なSFらしさもあって思いの外、スリリング。
ただし、この主人公の言動は見ようによればかなり独善的で必ずしもシンパシーを持てるモノにはなっていない。
その部分を辛気臭いと見るか、それとも必要な人物描写として割り切れるかが評価の分かれ目かもしれない。
ただ、低予算作ながら人物描写を物語の中心に据える努力を怠っていないこともあってドラマとしてはきちんと成立していると感じますし、その人物造形も中々に巧みで、各演技者の役作りにも説得力がある印象。
SF映画らしいスペクタクルを期待すると確実に落胆することになるが知的SFドラマとしてはそれなりに納得できる出来になっていると感じるのだ。そしてそれは今のアメリカ映画ではかなり珍しい部類だと言って差し支えない。

その原動力となっているのはもちろん主人公を演じたアレックス・シャープ氏の好演。
先述したように、必ずしも好感を持てる人物ではないながらその言動にはリアルな質感もあって結果的に最後まで関心を失わずに済みました。
それとノイズの解析部分の描写をおざなりにしていないこともあってハードSFの匂いも巧く出せている訳でSFドラマとしての造りは意外にも丁寧に感じました。
作品としての視点はあくまでこの大学生のデレク君に置かれているのですが、脇を固める人物の描写にも配慮が伺える辺りは嬉しい。
ただ、若い主人公を巡るルームメイトやクラスメイトとの絡みの部分に関しては「青春ドラマ」としての印象は強く無く、それが主人公のキャラクター描写の補強につながっているかどうかは微妙。
主人公を小奇麗に仕立てていない辺りにはインディーズ臭が強く漂っております。
というか、主演を含めた登場人物の「華のなさ」というか、地味さこそが本作のリアルさの要因なのかもしれない。

客演扱いの二人について言えば、描写自体の量は決して多くない。しかし、ただのお飾りでは終わっていない点は評価すべきでしょう。
G・アンダーソン演じる教授のデレク君に対する態度は至って現実的で時に冷淡とすら思えるが、彼女のシビアな視点が盛り込まれていることでドラマが甘くなり過ぎず、また主人公の造形が嘘くさく成らずに済んでいる。
それと彼女の自らの専門分野への情熱が摩耗した気配や「疲弊」がきちんと描かれているおかげでクライマックスの展開に弾みがついている点もB級作ながらドラマとしての志の高さを感じる。
そしてもう一人、政府機関による事態のコントロールを担うキーマンを演じているのがD・ストラザーン。
言わずと知れた米インディー映画界の重鎮な訳で本作でも手堅く存在感を発揮しております。
一見するとステレオタイプ的な政府機関によるUFO目撃情報の隠ぺい工作の指揮を官僚的に執る秘密組織の一員に思わせながら実は...
というようにこの人物がクライマックスに主人公と直接対峙することで本作のメインテーマが明確になります。

そのエンディング、普通なら盛大にスペクタクルを盛り上げて見せるかドラマチックに盛り上げることことに力を注ぐ筈。
しかし本作のエンディングは至ってシンプルで「拍子抜け」と感じる人も多いかと。
ところがそこで示されるテーマそのものは例えば「コンタクト」や「Arrival」そしてもちろん「未知との遭遇」といった過去のSF大作群と共通するものとなっており、いたって地味で小粒な展開に収めた低予算SF映画ながら示されるメッセージの世界観自体は決して小さくまとめてはおらず、テーマが効果的に伝わってくるものになっている気がしました。
好き嫌いは分かれる作品でしょうがアメリカ製のB級映画らしい匂いが少し懐かしく感じました。
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