小松屋たから

ジョジョ・ラビットの小松屋たからのレビュー・感想・評価

ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)
4.0
死後何十年経ってもこうやって色々な映画のネタにされ続けるヒトラー。

その存在感や、罪深さはあまりにも大きいということだろう。「誰の心の中にもヒトラーらしき存在はいて、それが支えともなり、悪意の引き金ともなる」ということはきっと万国普遍の真理で、「より優れていたい、他を圧倒したい」という人間誰しもが持つ欲望を写し出す鏡ということなんだろうか。

ヒトラーや実在のテロリストを題材にした映画を作ることは新たなヒトラーを生むという大いなる危険性を孕んでいるといつも思う。彼のようなカリスマはどのように滑稽な姿で採り上げても、反発を感じる人もいる一方で、共感したり憧れたりする人が必ず出てくる。だから、何よりまずは映画として新しい視点が採り入れられているのか、冷静な姿勢で観るようにしている。

この作品、全然、劇中の時代と関係が無いビートルズの曲から始まるところが示唆に富む。当時のヒトラーは、ある種のポップスターで、危険な思想は万人受けするライトなラブソングと同等クラスの浸透力を持っているという、先に上げた「危険性」を十分意識し、観客にまずはそのことを気づかせ、注意を促しているかのようだ。

圧政に抗うスカーレット・ヨハンソン演じる母親の姿勢は素晴らしい。人間の気高さの極みだ。でも彼女にはまだ幼い子供がいて、さらにもう一人、女の子を匿っている状況で、どこまで何をするべきだったのか。「愛こそがすべて」と言うのであれば、自己主張をそこまで貫くべきだったのか。守るべきものを守りながら、尊厳を保つことの難しさについて深く考えさせられた。

ジョジョはこれからは一人できちんと靴の紐を結べるだろう。だからとりあえずは、自分の身近な人々の靴紐を結び一緒に「踊れる」ようにサポートしていってほしい。そしてその善意が今の世界にも広がることを信じたい。