たむ

世にも怪奇な物語のたむのレビュー・感想・評価

世にも怪奇な物語(1967年製作の映画)
5.0
エドガーアランポーの原作小説をヨーロッパの巨匠が映画化した幻想怪奇譚です。
10周年を迎えたホラー秘宝で4Kリマスター版が公開、本作がスクリーンで観られる時が来るとは…。
個人的には思い入れもある作品なので、非常に感慨深いです。
映画ファンを長く続けていると、フィルマークスのベストテンとは別に、個人的な思い入れの強い、偏愛する裏ベストテンが出来上がったりします。
本作は、私の裏ベストテンの筆頭です。

オムニバス形式で、3本それぞれが魅力がある怪奇物語です。
ロジェ・ヴァディム監督のカリギュラな伯爵令嬢の悲劇であったり、ルイ・マル監督のドッペルゲンガー物語をアラン・ドロンさんが演じるなど、夢のような企画です。
そしてローマを舞台に『甘い生活』と『8 1/2』を足してホラーにしたようなフェデリコ・フェリーニ監督の『悪魔の首飾り』という締め方…。
アルコール依存症でずっと調子が悪い俳優を主人公に、人工的で華美な空港や授賞式からフェラーリで逃げる。
少女の悪魔に囚われている中、街を疾走するシーンは、ローマが史跡の街でもある事もあるのですが、魔窟に見えてきます。
アルコール依存症の幻覚なのか、街や空港にいる人々の華美なメイクや光過敏症的なライティング。
主人公すら真っ白で何やら不気味で、現実と怪奇が曖昧になっていきます。
悪魔の少女の登場も今となればマリオ・バーヴァ監督作品からの引用であるのはわかりますが、とんでもない構図で出てきます。
鶴田法男監督の心霊実話の幽霊も、構図によって不気味な存在が際立ちますが、本作はその先行作品とも言えると思います。
映画史上最も恐ろしくも美しくも見えてしまう瞬間が少女の悪魔にあります。
フェリーニ監督はどうしても長尺であったりしますが、オムニバスの一本としてそのエッセンスを凝縮させた怪奇映画で最も個性を発揮している部分もあります。
長らく観ることが出来ず、少女の悪魔がすごい、と文献だけで読んだ事があり、一体何がどう凄いのか?それを観れた時の衝撃。
祝祭はフェリーニ監督の得意な表現ですが、そこから地獄にある意味自分から加速して突っ込んでいく死の欲動が描かれます。
本作の3本に共通しているところでもありますが、ホラー映画を超えたテラー映画だと思います。
ホラーは嫌悪感をもよおす恐怖、テラーは崇高なもの、美しいものに感じる恐怖。
美しすぎるスターの共演も本作の見どころですが、そんな恐ろしいのに目が離せなくなる映画です。
そんな映画は『雨月物語』と本作が筆頭です。

偏愛映画レビューでしたが、皆さんの他の人が何というとこれが好き、な偏愛映画がありましたら教えて下さい。
たむ

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