小松屋たから

AI崩壊の小松屋たからのレビュー・感想・評価

AI崩壊(2020年製作の映画)
3.6
大規模公開のエンタメ系実写邦画で、コミックや小説原作、実話ベースではなく監督自身の手によるオリジナルストーリーという作品は結構少ないので、まずは、制作、公開関係者の勇気を称えるべきだろう。結果、興収が10億を超えていきそうとのことだから何よりだ。

その点は「サイタマノラッパー」というほぼ自主映画から、このスケールを任せられるまでになった入江悠監督の人間力の賜物と推察する。「自身の半径数メートル以内の人間関係を描きカンヌ、ベネツィアを目指す」という邦画の監督たちの得意技ではなく、社会全体を舞台にする、という純エンタメ指向を持っている監督が日本でも成果を上げたということは貴重なことだ。

作品の内容自体は、「マイノリティリポート」「アイ・ロボット」…などいくらでも挙げられる過去作のつぎはぎという感は否めず、AIの崩壊というよりは結局は人間たちの暴走であることも、ハリウッド過去作の発想力の域を出ない。韓国映画のように社会全体を巻き込むパワーも、もう一段、欲しいところ。

アナログ捜査の力、親子の絆、といった要素もやや類型的。AIと人間の関係も語りつくされてきた感もあり、もし、本作が10年前に公開されていたら、先進性が高く評価されたであろうが、今や、この作品内で描かれている世界は、すでに、実際の人類は通り過ぎてしまっているかもしれない。それほど、技術革新のスピードは加速しており、この企画がいつから立ち上がったのかはわからないが、もし承認から公開まで3年ぐらい経ってしまっていたとしたら、邦画の製作過程を見直す必要はあるだろう。

「パラサイト」「JOKER」など、オスカーとヨーロッパの映画祭双方で同時に評価されるボーダーレスな映画が数多く生み出されている今、邦画はどこへ向かうべきなのか。才能のあるクリエイターはまだまだたくさんいるはずだが、製作者がスピード感を持って、育成、抜擢をしていかないと、方向性が見つからないまま、どんどん世界の潮流から離れたパーソナル映画ばかりになっていってしまうような気がする。まあ、それはそれで文化の一つとは言えるけれど。