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ジ・アリンズ / 愛すべき最高の家族の消費者のネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

ステージ上での脱糞や自傷行為など過激なパフォーマンスで人気を博した伝説のパンクロックミュージシャン、GG Allin
彼の家族を通してその歴史と遺した物を描いたドキュメンタリー

彼の存在は知っていたが音楽をあまり知らない状態での鑑賞
しかしそれでも彼のパブリックイメージである狂気性と本来の人間味の両方がよく伝わってきたし色々と考えさせられる部分もあった
ロックに元来あった反骨精神の極致までひた走る姿や「ロックとは本来恐ろしい物だ」という彼の考えには個人的に共感もするしLive Fast, Die Fastという価値観にもやはり格好良さは感じる
一方でそれと普通の人間としての生活を両立する事はとても困難だ
その末に彼は死んでしまった事からもそれは明らかだ
だが彼は生前より自分の成すべき事を終えたら自殺すると宣言していたのでそれも本望だったのかもしれない

自分の人生に見出した意味や目標の為なら他の全てを投げ打つ
その姿は痛々しくも美しい
昨今は安定や長生きが当たり前に望ましいとされているがそれで得られる物とは何か?
生きる為に働き様々な責任を負う事に大きな時間と力を費やすがその目的は?
そう問いただされている様な気分になった

彼の様に破滅的に短命な人生こそが最高だ、とは言わないまでも全ての人間に彼の様な精神が少しは必要なのかもしれない
社会の規定する幸福が必ずしも自分にとってもそうだとは限らないのだから

彼とその兄、マールの音楽活動によって母であるアリータも様々な苦労を強いられた事だろう
それでも彼女は今でも息子を愛し続け死んだら彼の亡骸の上に埋めて欲しい
そして再び一緒になりたい、と願う
スカムやジャンク的な扱いを受ける事が多いレベルミュージックを生涯貫いた事の代償を踏まえても決して消えない家族愛がそこにあった

本作のラストで笑いながら「酷い音楽ね」と言う彼女を見て世間的には悪趣味と捉えられやすい様な音楽を聴いてきた自分も優しい抱擁を受けた様な気分になった
音楽に限らず芸術には血肉が宿る
しかしその作品群とは別に日常を生きる自分もまたどれだけ姿が異なっても同じ人間だ
その狭間に生まれるジレンマに苦しむ人は表現者だけでなく好事家にも多い事だろう
自分もまたその1人だ
でもそれで良い、そのままで良いのだと
そう肯定された様だった
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