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セメントの記憶の小のレビュー・感想・評価

セメントの記憶(2017年製作の映画)
3.5
バブル経済に沸くベイルートで、超高層ビルの建設現場で働くシリア人移民・難民労働者に焦点を当てたドキュメンタリー。彼らは内戦でセメントのにおいや味を嫌というほど知っているに違いない(『アレッポ 最後の男たち』を観るとよくわかります)。

本作のように芸術性に軸足を置いたと思われるドキュメンタリーは、大体眠くなるし難しいけれど、自分が映画を観て頭に浮かんだのは『シーシュポスの神話』の物語。

<神を欺いたことで、シーシュポスは神々の怒りを買ってしまい、大きな岩を山頂に押して運ぶという罰を受けた。彼は神々の言い付け通りに岩を運ぶのだが、山頂に運び終えたその瞬間に岩は転がり落ちてしまう。同じ動作を何度繰り返しても、結局は同じ結果にしかならないのだった。>(ウィキペディア)

人間のやっていることって、本質的には穴を掘って埋めることの繰り返しのようなこと、なのかもしれない。戦争を日常としてきた者が生きていくには、この不条理を真っすぐ受け止めるほかないのかもしれない。本作は次のように語る。

<ある男が、出稼ぎ労働者だった父がベイルートから持ち帰った一枚の絵の記憶を回想する。絵には白い砂浜、青い空、そして2本のヤシの木が描かれていた。男が少年の頃初めて見た海の記憶だ。待ち焦がれていた父の帰還に少年ははしゃぐ。顔を撫でてくれた父の手はセメントの味がした。父は少年に語った。“労働者は戦争が国を破壊し尽くすのを待っているんだ”。>(公式ウェブ)

考えさせる内容で、戦争の悲しみは強く伝わってくる。もちろんそれは重要なことだけれど、余韻はそれほどではなったかな。『アレッポ 最後の男たち』の方が自分の観たいことが多かった気がする。
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