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The King and I 王様と私のyuzooのレビュー・感想・評価

The King and I 王様と私(2018年製作の映画)
4.8
会場の空気をそのままに、実際に客席にいるときには見えない出演者たちの細かな体の動きや表情を楽しめる今回のライブビューイング、「素晴らしい」の一言でしか表現で来ません。夏の来日公演に先駆け、予習としても、56年の映画版を好きな方も、いろんな方に見てもらいたい、一押しの1本です。

本作では異なる2つの文化が出会い、お互いにそれを受け入れようとする姿の裏には親子の愛や若い二人の叶わぬ恋が描かれており、全く別のものの見方に驚いたり、何が正しいのか判断することに苦悩したりする登場人物の人間性は時代を超えて非常に共感を呼ぶのではないでしょうか。
また、「アンクルトムの小屋」をお芝居としてタイの伝統的な踊り(のようなもの)と一緒に劇中劇として上演するシーンがあります。奴隷制とは過去の遺物とみなされがちですが、現在でも同じ人種、同国民同士の対立等でも同じような側面が見て取れます。本作全体を通して自由と抑圧、社会的強者と弱者について強く考えさせられました。
さらにもう一点、アンナが西洋とシャムの国での女性の立場の違いを知り驚くシーン。もちろんシャムの国での考え方は一夫多妻制を取っている時代なのでだいぶ極端ですが、現代を生きる日本人として西洋の考え方も、シャム側の考え方もどちらも理解できると感じました。近代化された文化の中でも古風な考え方を当たり前と思っていたことに気づかされることがあるとは思っておらず、2つの文化をこのようなリベラルな見方(どちらかと言えば西洋寄りですが)で見ることができたオスカー・ハマースタイン2世の劇作家としての才能に改めて脱帽してしまいました。
もちろん、かわいい子供たちが滑稽な動作をするなど、笑いの要素も作品のそこここに散りばめられており、終盤まで飽きることなく見入っておりました。

『サウンド・オブ・ミュージック』に並ぶ往年の名作ミュージカル『王様と私』が2015年ブロードウェイにて再演され、15年のトニー賞ではリバイバル作品賞を含む4部門を受賞と、大変な快挙となりました。そして18年には同プロダクションがロンドンにて開幕、19年の夏には来日公演が控えており、その勢いは収まるところを知りません。
本作でトニー賞主演女優賞を受賞したケリー・オハラが家庭教師のアンナ、そして日本を飛び出して世界で活躍する俳優の渡辺謙がシャムの王様をそれぞれブロードウェイ公演から引き続いて演じています。さらに日本のミュージカル作品にも多数出演する大沢たかおがシャムの首相クララホム役を務め、王妃レディ・チャン役を、こちらも本作でトニー賞助演女優賞を受賞したルーシー・アン・マイルズが名演。
 
出演者の中ではやはりケリー・オハラとルーシー・アン・マイルズに圧倒されます。特にルーシー・アン・マイルズは交通事故で当時5歳だった娘とおなかの中にいたお子さんを亡くし、今作がその復帰作にあたるのです。そんな不運の中にいる彼女が王の第一夫人として、王子の母親としての葛藤を抜群の歌唱力に乗せて表現しているのです。スクリーン越しにロンドンの会場の全員が彼女にググッと惹きつけられているのが本当にはっきりと感じ取れました。
ケリー・オハラは古典ミュージカルにはもってこいの声と持ち前の身体能力を生かして「南太平洋」や「エニシング・ゴーズ」などで主演を務めていた実力派の女優です。本作では家庭教師のアンナとして、女性ならではの強さと優しさを歌に込めて、華奢な体からは想像できないほどきれいでのびやかな声で歌い上げていました。
 
劇場にて鑑賞した際は年齢層はやや高めかな、と言う感じで、もっと若い人たちも楽しめるように学生料金など(NTLにはある)設定したら良いのでは?と思いました。今後のシネマブロードウェイ作品たちは東宝東和ではなく松竹が公開していくので料金設定や宣伝などは方針が変わると思いますが。
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