むぅ

イエスタデイのむぅのレビュー・感想・評価

イエスタデイ(2019年製作の映画)
3.7
ビール、映画、便箋と封筒
それが消えてしまった世界は?

自分が嫌いでも、興味がなくても、それを大好きな人はいる。
その逆もまた。

突然世界で起こった12秒の停電。
その停電で事故にあったジャックが目覚めると、そこはビートルズが存在しない世界だった。

ビートルズ以外にもいくつか世界から消えてしまったものがある。
それはおそらく、ビートルズと関係が深かったりゆかりがあるものなのだろうなと思う。
けれども、私はその停電中うっかり宙に浮いてた人(ジャックは車に跳ねられて飛んでいた)の大好きな"何か"が消えてしまった世界線。そう想像して観ることにした。
私が停電中、宙に浮いていたら消してしまう"大好き"の候補は。
「絶対、酒。酒全般」
「それ禁酒法の時代に放り込まれるよりツラいじゃんか」
友人にそんな解釈を話していたら、そう即答された。間違いない。
「え、映画とか」
「いや、酒。絶対に」
食い下がってみたが手厳しい。
その友人が言った。
「これ、切ない映画だよね。想像したら涙出る」
その解釈は全くなかった。
「なんで?」
「だって、自分の好きなものが消えてて、その話を誰もわかってくれないんだよ?」
さすが。News23で泣くだけの事はある。
確かに、お酒も映画も便箋と封筒も消えてしまったらどうするだろう。紙が消えていなかったら、便箋と封筒は何とかなるかもしれないな、なんて思ったりした。
小学生の頃、何度か転校した事のある私にとって手紙は書くのも読むのも特別な時間だ。

ビートルズに詳しくなくても、ほとんどが知っている曲。
それって凄いことだな、と思う。
ラストシーンで流れる「オブラディオブラダ」が好きだ。
学生時代、がっつり演劇部だった。先輩達が上演した戯曲「わが町」のエンディング、まるで映画のエンドロールのように登場人物それぞれにスポットライトを当てながら「オブラディオブラダ」が流れた。何故か、泣いてしまった。今でも、何故涙が出たのかは分からない。でもそれ以来、大好きな曲。

10代で口ずさんだ歌を、人は一生、口ずさむ

音楽はタイムマシンなのかもしれない。

No Music、No Life
その言葉があまり好きではないと言った人がいた。理由を聞くと、音がない世界で生きている人もいるという答えだった。
誰もが乗れるわけではない、音楽というタイムマシン。
「オブラディオブラダ」が連れて行ってくれた私の"過去"は、劇場を出た後の爽やかな夜風と、号泣してんじゃん!と笑うみんなの笑顔。

"明日天気になぁれ"
「オブラディオブラダ」を聞くとそんな気持ちになる。
そんな事を書こうと思いながらの帰り道、誰もいない公園を横切りながら、たまには"明日天気になぁれ"と靴を飛ばしてみようかと思った。

Ob la di,ob-la-da,
life goes on,bra
La-la,how the life goes on

明日もいい日でありますように
私にとっては、そんな気持ちにさせてくれる映画。
むぅ

むぅ