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サイダーのように言葉が湧き上がるのkuuのレビュー・感想・評価

3.8
『サイダーのように言葉が湧き上がる』
映倫区分 G
製作年 2020年。上映時間 87分。
郊外のショッピングモールを舞台に、コミュニケーションが苦手な俳句少年とコンプレックスを隠すマスク少女が織りなすひと夏の青春を描いたオリジナルアニメ。
主人公チェリーの声を声優初挑戦の八代目市川染五郎が務め、スマイルの声を女優・杉咲花が担当。
監督は、テレビアニメ『四月は君の嘘』のイシグロキョウヘイ。

俳句以外では思ったことをなかなか口に出せない少年チェリーは、ヘッドホンで外部との接触を遮断して生きている。
ある日彼は、見た目のコンプレックスをマスクで隠す少女スマイルとショッピングモールで出会い、SNSを通じて少しずつ言葉を交わすように。そんな中、バイト先で出会った老人フジヤマが思い出のレコードを探し回る理由を知った2人は、フジヤマの願いをかなえるためレコード探しを手伝うことに。
一緒に行動するうちに急速に距離を縮めていくチェリーとスマイルだったが、ある出来事をきっかけに2人の思いはすれ違ってしまう。
この映画は、ユニークな映像言語を用いて若い愛の物語を魅力的に語る美しい映画であり、とても楽しいものです。しかし、より深いレベルでは、この映画は最も感動的な詩的な頌歌。
      

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サイダーの  。 。 。 。 。 。 。
    ように言葉が  。 。 。 。 。
         湧き上がる   

江戸時代には十七文字と呼称され、現代では十七音とも表記される五・七・五の十七音で表現される俳句(季語が不可欠。因みにサイダーも確りと夏の季語)。
今作品での、この俳句の使用は単に主人公の一人の叙情的な特異性を示すだけでなく、この映画そのものが、予想外の併置によって生まれた創造的な作品、謂わば、部分の総和を超えた全体を示すモンであるこを予感させてくれます。
俳句は、自然の美しさを表現する新しい方法を求めて、典型的な文法パターンや一般的な決まり文句を爆発させるけど、芭蕉さんスゴイ!
最近では少し下火にはなってるが夏井いつき先生が出演するテレビ番組『プレバト』の俳句の才能査定ランキングなどで注目されてる。
『四月は君の嘘』のイグロキョウヘイ監督が、そのプロットと美術の両方で恋愛アニメに行ったことは、まさにこれかな。
ポップな色調と音楽を取り入れ、ネオンのように電光を放つビジュアルを実現していた。
ネオ・シティーポップミュージックってのは、こないな物語から生まれたらステキかも。
人間の目は新しい色調に慣れるのに20分ほどかかると云われてるし、最初はちょっと無理かなって思ったけど、今作品が描く色彩豊かな世界に圧倒され、気がついたら嵌まってた。
その大胆なビジュアルパレットは、線画の細かさと影絵のようなフラットなカラーデザインとは対照的やった。
映画の前提はごくごく普通のボーイ・ミーツ・ガールもの。
それぞれに不安を抱え、夏の月日が流れ、二人は互いに近づき、ドラマチックな告白のシーンでクライマックスを迎える。
通常、ロマコメのプロットの長所と短所は、会話の魅力に左右される。
女子は一風変わったユニークな女子、男子の不器用さはホノボノとした兄ちゃん。
彼らの不安は、淡い過去の日を想うと親しみやすかった。
今作品を見応えのあるものにしているのは、ロマンスのプロットが持つ通常のドラマチックな緊張感を軽視し、世代間、特に日本の現代生活と伝統の間の詩的な調和(日本の伝統的な物語、吉祥天節の中核)というテーマに焦点を移していることにあるのかな。
今作品の核にあるのは、古めかした愛によって、また千年の文化と日本古来の芸術性の融合によって可能になった青臭い愛の物語で、ロフト風のクールな寝室をシェアするスマイルと姉妹たち。
多くのの恋愛モンで、主人公の不安は恋愛のプロットのつまずきになる。
不安は、愛が勝つために乗り越えなければならない課題であるだけでなく、ある時点で積極的に愛を妨げ、誤解を生じさせる。
男子は自分の問題のために女子にふさわしくないと思い、女子は自分のこと(大人になれば些細なことでも)のために愛されないと思い、あるいはその逆かもしれない。
そして、その不安こそが愛とロマンスの敵やし、お節介な第三者のキャラが登場するとしても、物語の真の悪役になってしまう。
今作品では、スマイルは目立つ歯と歯列矯正に自意識過剰で、そのためにマスクをつけスマイルというあだ名で呼ばれている。
チェリーは、人前で話すこと、そしてあまりに多くのことを話すことを避けており、そのため大きなノイズキャンセリングヘッドホンをつけて人を遠ざける。
物語の前提がほんまユニークでした。
前半はとてもクールな雰囲気に包まれ、登場人物やダイナミックな街並みと共にアニメの中で生きてるような気分になりました。
後半は、シリアスな展開になり、主人公たちが古いレコードを探そうとする、かわいらしい物語やった。
最初は、俳句と本編がどう結びつくのかわからなかったけど、最後のほうは、言葉遊びが巧みで、すべてがうまくつながってたと思います。
二人ともそれぞれ不安を抱えていて、それを隠すための手段も持って少年少女なりにキャラを作ってる。
俳句を通して二人が結ばれ、言葉遊びと美しい詩が、二人の登場人物を成長させ、不安と向き合わせたことがとても気に入りました。
ただ、唯一の問題は、結末がかなり急ぎ足に感じられたかな。
2つの大きな瞬間があったけど、最初の瞬間は、心に残るには十分なスクリーンタイムではなかった。
しかし、2つ目の大きな瞬間は美しく、大きな不満足ってまではおもわないが、2つ目の瞬間は、最初の瞬間の感動がちょっと影をひそめてしまったかな。
今作品、2つの瞬間、特に1つ目の瞬間をよりインパクトのあるものにするために、もう少し長くする必要がある。
全体的に、シンプルでありながら巧妙なストーリーと前提を持つ、美しいアニメーション映画でした。


若い時には受け付けなかった80年代の綺麗すぎる音。
オッサンの今(夏の黄昏真っ只中)、その凄さに気付いたシティーポップ。
ここで一句。

CITY POP
    夏の夕焼
       ヒット中
          
               #俳句
。。。俳句は難しいなぁ。。。by kuu。

サイダーや
    儚さよりも
        軽き泡
          by 守屋明俊
やっぱり俳人は上手い!
kuu

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