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阿吽のhorahukiのレビュー・感想・評価

阿吽(2018年製作の映画)
3.9
3.11で批判される側の視点を、8㎜フィルム撮影で描き出したアート系ホラー映画。

冒頭から黒の存在感と白の眩さを見せつけられる映像の質感に圧倒されたし、題字の手書き感や話す際の口の動きとセリフとのズレも含めて半世紀以上前の古典作品を見てる感覚に自然と気持ちを持っていかれたんだけど、スマホに代表される現代を象徴するアイテムや現代を生きる人たちの言葉や立ち振る舞いから浮かび上がる空気感と映像とのギャップが新鮮で、その心地良い違和感にグイグイと引き込まれた。

某電力会社の従業員という批判される立場にありながら、末端だから何かができるわけでもなく、浴びせられる言葉と際限なく浮かび上がってくる罪悪感に精神が蝕まれ日常が崩壊していくのが見ていて辛い。明確な敵意として向けられるもの、何となくの日常会話から出てくるもの、表面だったものでなくとも潜在的に蔓延る価値観が合わさり、回り回って精神をえぐる。

ガラスや鏡等、反射する自分のイメージが多用され、8㎜だからこその濃い黒をバックに映し出される鏡像が漆黒の闇の中にポツンと浮かび上がっているように見え、闇の中に自分が取り残されてるような孤独と絶望の感覚を強調しているように感じました。

そしてそれは負の面の可視化だと捉えることもできるだろうし、それと向き合うことにより更に深みにハマっていくわけで、「呪い」としての負は自分に纏わり付き、実態のないソレは払い除けることも掌握する(支配する)こともできるはずもなく、そんな尻尾を掴むことさえできず際限なく広がる深淵の闇と永遠に戦い続けなければならない地獄にゾッとした。更には、ソレは主人公のような特殊な状況に限られたものなのではなく、日常の些細なことから当たり前のように生まれ、誰にもに纏わり付く存在なのだという帰結も良かった。

前半は表面的で凡庸に思えるシーンが多かったのですが、覗き込む深淵あたりからどんどんと面白くなっていき、迎える変貌の凄まじさはホラーとしての圧倒的説得力を持ったものでめちゃ好きでした。作中にゴジラという言葉が出てきていましたが、確かにアレはある意味ではゴジラなのかもしれません。日本だけに限らず潜在的に蔓延してる価値観により形成される変化球で斬新な角度からのアプローチによるゴジラ。対立的な図式ではなく、見過ごされがちだけどその間に確実に存在している視点。

クライマックスのアレは単純な意図を見出すことはできるし、実際に込められてはいるのだろうけど、そういうこところじゃないんだろうね。対象の正当性とかじゃなくああならざるを得ないんでしょう。ゴジラだってそうなんだし、人の深淵ってのもそういうものなんでしょう。そういったところも含めて蔓延る価値観や事実・見解としての正誤には口出しするつもりは毛頭ないですが、監督の思想が色濃く反映された面白い作品だと感じました。

舞台挨拶でドライヤー『吸血鬼』とムルナウ『吸血鬼ノスフェラトゥ』の影響について監督が語ってましたが、ドライヤーの方はほぼ完コピに近いシーンまであったんでやっぱり〜ってなって嬉しかった。虚実入り混じることでグチャグチャになった主人公のカオスな心境を表現する上でのドライヤー『吸血鬼』、そして影による二面性と忍び寄り肥大化する恐怖という面での『吸血鬼ノスフェラトゥ』。両者ともめちゃナイスな引用に感じました。でも『ショック集団』は全く気づかなかったわ…。
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