SANKOU

ラストナイト・イン・ソーホーのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

イギリスの田舎で祖母と二人暮らしのエリーはファッションデザイナーになることを夢見ていた。
彼女はロンドンにある服飾学校に合格し、女子寮に入寮するが馴染むことが出来ず、ソーホー地区にあるボロアパートの屋根裏部屋を借りることになる。
夜眠りにつくと、彼女は60年代のロンドンにいた。エリーが憧れているのは60年代のロンドンだった。
まさに理想のロンドンを目の前に彼女の心は踊る。
ふと鏡を見ると彼女の姿は金髪の美女に変わっていた。
彼女は歌手になることを夢見るサンディ。
エリーは夜、屋根裏部屋で眠りにつく時だけ、サンディと身も心も一体化し、まさに夢のような時間を共有する。
夜の体験はそのままエリーにデザインのインスピレーションも与える。
カフェ・ド・パリのマネージャーであるジャックに見初められたサンディは、確実にスターになるための階段を昇っているかに思われた。
しかし、ある夜エリーが夢の世界に入ると、サンディはショーの主役ではなく脇を固めるダンサーの一人になっていた。
彼女は仕事を得るために、エンタメ界に顔が効く男連中の夜の相手をすることを拒んだらしい。
ジャックも豹変したかのようにサンディの身体を男たちに差し出そうとする。
ここでエリーは理想的だと思っていた60年代の闇の部分を見せつけられることになる。
男たちは夢を叶える見返りに彼女たちを食い物にしていた。やがて身も心もボロボロになっていくサンディ。
同時に楽しみだった屋根裏部屋での夜の時間が、エリーにとっても悪夢へと変わっていく。
ある夜、エリーはサンディがジャックに殺される場面を目撃してしまう。
そして屋根裏部屋だけでしか見られなかった夢の世界が、少しずつエリーの現実を侵食していく。
のっぺらぼうの男たちが町の至るところに現れ、エリーを追いかけて来る姿はとても怖かった。
ジャンルとしてはホラーなのだろうが、今までに見たことのない新感覚の映画だった。
カメラワークがとても素晴らしかった。
現代のロンドンは下品なネオンに照らされているが、60年代のロンドンはまさに光の洪水といった感じで輝きに満ちている。
そして鏡の使い方が絶妙だった。
エリーの母親は彼女が7歳の時に自殺してしまった。
エリーがロンドンへの出発前に、部屋の鏡を覗くと、そこには亡くなった母親の姿があり、彼女を見つめている。
エリーが見る夢の世界でも鏡は重要な役割を果たしている。
鏡の中ではサンディの姿はエリーのままだ。
サンディと鏡の中のエリーの動きがシンクロする場面はとても見事だった。
後半、夢の中で殺されていたサンディが、実はアパートの大家であることが分かる。
サンディは犠牲者ではなく、彼女を食い物にしようとした男たちを手にかけた加害者だった。
町で現れるのっぺらぼうの男たちは全てサンディの犠牲者だったわけだ。
真相が分かってからも、エリーはサンディに対して恐れを抱くどころか、彼女のこれまでの苦痛を思って心を痛める。
秘密を知られたサンディはエリーを殺そうとする。
幽霊になった男たちはサンディを殺して欲しいと一斉にエリーに訴えかける。
しかしエリーはその訴えを拒絶する。
悪いのはサンディではなく、彼女の夢を奪った男たちの方だ。
このあたりの心理描写は見事だと思った。
ホラーとしての怖さはあるが、それ以上に女を力で押さえつけようとする男たちへの嫌悪感の方が勝っていた。
華やかに見えた60年代だが、その陰には搾取された数多くの犠牲者がいる。
とても現代的なテーマを持った作品だと感じた。
どれだけエリーが悪夢に侵食されて奇怪な行動を取っても、最後まで彼女に寄り添おうとしたジョンの存在が好ましかった。
エリー役のトーマシン・マッケンジーはとても良い表情をしている。
今後も彼女が出演している作品は要チェックだと思った
SANKOU

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