けんざ

ミッドサマーのけんざのレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
3.7
白昼夢の惨劇。ホラー映画というよりはトリップ映画?悪夢っていう感じでもなく、幻覚の美しさを称えているような。儀式の狂気を強調するためのシュールなお笑いシーンも多く見受けられ、『ヘレディタリー』のストイックさが薄れてしまったのは残念だった。アリアスター監督が「これはコメディ映画だ」と言っていたのは、あながち誇張でもないのかも。

儀式が進むにつれて不穏な空気と不協和音が薄れていくのは、まさしくドラッグを吸引している感覚なんだろうなと思った。トリップしている最中に見る幻覚は、その人の教養や背景を反映したものだと言われているけど、そう考えるとダニーの変容にも納得がいく。最初に幻覚を見たとき著しくバッドに陥ったのは現実に不安材料をたくさん抱えていたからで、物語が進むにつれて図らずもそれらが取り除かれていき(擬似家族となった共同体、彼氏と男友達から向けられていた疎外感の除去)、イカれたトリップを満喫できるようになっていったのだと考えられる。だからあのラストシーンはハッピーエンドと考えていいんじゃないか。

学者が異国の文化を研究する目的で現地を訪問するとき、人々に受け入れてもらうための最善の方法は差し出された食事を躊躇なく飲み食いすることなのだという。それは奇天烈な文化を笑ってやろうという魂胆ではなく、現地の文化に敬意を表していることを分かりやすく伝えられるからだ。本作でも得体の知れない食べ物や飲み物が山のように押し付けられるが、今回は飲食への抵抗が不敬ではなく危機感を示すバロメーターになっている。そういうシーンが多く描写されていたから、観ている人が登場人物たちへ共感しやすくなっているように感じた。

追記.
今思い返すとこの映画のモデルになったのは、現在もヨーロッパの一部で行われている「ネスティナルストヴォ」というキリスト教の儀式なのではないかと思った。トランス状態になった踊り手たちが残り火の上を裸足で踊るというもので、2009年にはユネスコの無形文化遺産にも登録されている。
https://bulgariaforjapan.wordpress.com/category/3%EF%BC%8Eブルガリアの心/ネスティナルストヴォ/


2回目 2021年1月9日 アマプラ
見直してみたところ、思ったよりもギャグ寄りだった。設定もB級感あるけど、ホルガという空間のクオリティが高いから気にならなかったのか。クリスチャンとその男友達はやっぱ胸糞野郎だったし、ダニー視点で見るとハッピーエンドの物語なんだなと再確認できる。

3回目 2024年5月12日 ネトフリ
見るたびに、食べ物とか飲み物でカルトへの嫌悪感を表すの秀逸だな〜って思う。
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