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フェアウェルのikumuraのレビュー・感想・評価

フェアウェル(2019年製作の映画)
3.5
A24からまた一つ、佳作が。
今度の主人公は幼い頃中国からアメリカへ両親とともに渡ったビリー。
演じるのはCrazy Rich Asiansで主人公の親友役として強烈な印象を残した、
オークワフィナ(オーシャンズ8にも出てるか、僕は未見ですが)。

作家を目指すもうだつの上がらないモラトリアムな人生を生きているビリーは、
不自由な中国語で海を隔てたところにいる祖母との電話を欠かさないおばあちゃんっ子。
そんなある日、祖母が末期の肺がんで余命いくばくもなく、
それを本人に告知せず家族が集合するため従兄の結婚式をでっち上げている、と聞く。
「お前は顔に出てすぐバレるから来るんじゃない」(金もないだろう、ということか?)
と両親に言われたが、結局おばあちゃん恋しさに合流する。

はじめは自分も日本の祖父母のことを思い出したりして号泣モードだったのだが、
映画の進行とともに不思議と気持ちは落ち着いていった。
祖母に告知しないことに反発するビリーだけど、
だんだんと「嘘も方便」と受け入れていくことと重なったのかもしれない。
映画が終わる頃には、ビリーと一緒に、田舎で大家族と過ごした気分になります。
(舞台は中国東北部の長春かな?大都会です)
それくらいオークワフィナの演技に引き込まれる。

海外のレビューで、「レディーバードのお母さんへの呼びかけを、ここでは祖母に対してしている感じ」というようなのがあったけど、
A24だけあって確かに似ている。
というか、主人公のキャリアとか、人間関係の進展という点において、
レディーバード以上に変化はあまり起こらず、その意味でとても地味。
(レディーバード苦手な人はもっと無理かもですね(笑))
ビリーは最初からおばあちゃん大好きだしね。
でも淡々と、移民として散っていく家族の来し方行く末や、
(伯父さん一家は日本に移住してて、
イトコはほとんど中国語が喋れず、
お嫁さん役で連れてきた日本人の女の子はずっとキョトンとしてる(笑))
親や子供での感じ方の差なんかも語られる中で、
家族のまとまりというものをなんとなく掴んで、
ビリーも自分のアイデンティティを改めて見直す感じ。

なんというか、おばあちゃんの、すごく伝統的で家族に愛情を注ぎながら、
独占的でもなく、子孫がそれぞれチャンスを求めて散らばっていくのを受け止め、
でも、いつでも帰ってきていいよ、と、その中核を守っていてくれている感じが素敵だなと。
それって中国的な家族の理想なんだろうか。
アジア的というので日本も一緒にくくられるけど、
(昔と比べても)海外に移民することがより珍しい分、
またちょっと違うのかなとふと思った。
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