クシーくん

エッシャー 視覚の魔術師/エッシャー 無限の旅のクシーくんのレビュー・感想・評価

4.0
エッシャーの事はよく知らなかったが、本作を観て非常に興味が湧いてきた。作品の大部を占めるだまし絵は幾何学的で緻密な計算の元に成り立っていて、自分の中でなんとなく理解を拒んでいた部分もあったのかもしれない。本作はそんな無意味に頑なな私の心も解きほぐすように、自由で柔軟、だが思慮深く偉大な発想の元に生み出されたエッシャーの絵画の魅力を存分に語ってくれる。

オランダの裕福な家に生まれたエッシャーが絵の修業の為にイタリアへ赴き、後の愛妻と出会い、ファシズムの吹き荒れる厳しいヨーロッパを耐え抜き、戦後に英米から絶大な評価を受けるに至るまでの彼の波乱に満ちた人生と美術の歴史を、アートワークスを交えて解説していく。

私が理解出来ずに敬遠していたエッシャーのアートをとても分かりやすく解説してくれるのが嬉しい。エッシャーの作品はパズルが積み重なった万華鏡のような物もあり、一見するととても複雑だが、同時にユニークでもあることが十分に理解出来た。反復、絶え間ないリズム、そして無限性。それらを大胆にも敢えて切り取ったり書き換えたり、時にはアニメーションを使い、またCG処理で絵に変化を加えることで、本来こういう視点で視える筈の世界がエッシャーの手によってどのように変化していったかという過程を幻視しているような体験を味わえる。最後に何故エッシャーが自らを芸術家ではなく数学者と称したかも非常に納得がいった。視覚的にも楽しく、素人にも優しい映像作品である。
「美しく作ろうとした版画は私には一つもない。そんなものは頭痛の種になるだけだ」が印象的。

正直エッシャーの絵が西海岸のヒッピーカルチャーの中で消費されていったくだりは要らなかったと思うが、これは監督がエッシャーに魅了された出発点なのかな。それともエッシャーの受容と歴史において外せないからか。

アルハンブラ宮殿にはとりあえず行ってみたくなった。でんぐりでんぐり可愛い。
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