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るろうに剣心 最終章 The Finalのチーズマンのレビュー・感想・評価

3.0
むむむ。










原作ファンなので驚いたのですが、かなり大胆なアレンジで構成されています。
るろうに剣心「追憶編」を、そのままの流れで見せてくれるのかと思いきや、この2部作の前編で一気に全て終わらせ、後編で剣心の過去のパートを振り返るというトリッキーな構成になっていました。
たしかに長い物語なので、そのまま全てを描いたら到底映画2本に収まらないので、相当考えて工夫した結果だと思います。
しかし前編だけでメインストーリーである現代パート(明治)を一気に終わらすのだからとにかく詰め込み過ぎで作ってあるのかと思ったら、これが逆で、全然詰め込んでないのです。
むしろ、ストーリーの流れをまとめるという意味では場面の取捨選択と再構築が上手いぐらいです。
なので、あれだけ長い原作を1本の映画にまとめた割には、ストーリーとしておかしな部分や無理がある部分はほとんど無いと言ってもいいと思います。

なんだけど、その結果、めちゃくちゃ薄い話になってしまってました。
るろうに剣心の原作では、「志々雄編」がジャンプ漫画的なとにかくバトルの面白さとそれを最高に盛り上げる敵キャラ達の存在感などが核となってました。
そしてこの「追憶編」はさっき言ったジャンプ漫画的なバトルをやり切った後の、剣心の人斬りという過去にどう落とし前をつけるのかというドラマパートが核となる話です。
なので「志々雄編」と比べると原作では明らかにバトルよりもドラマに力を入れているのが分かります。

で、この実写映画版はというと、その「追憶編」の重厚なドラマを二部作で描くのではなく、そのドラマをごっそり抜き取ってバトル漫画的な方向で描くことで一本の映画にまとめたのです。
その代償として当然話は薄くなります。
そもそも剣心の過去と現在というドラマを描くための設定で全てが組み立てられた追憶編からドラマを抜いてしまったんですから、キャラや設定という形だけが残ったなんとも空虚な作品に思えてしまいましたね。
その中でも原作の印象的なセリフや場面などは上手く入れ込んでいましたが、その取捨選択がなまじ上手いだけにそれが余計にダイジェスト感を漂わせていて、しかもそのダイジェスト的設計の中で剣心と巴の過去が更にダイジェストで流れるので、原作ファンとしてはちょっと見てらんないというか、なかなか厳しいものがありました。

剣心と巴の過去は2部作目でやるんだろうことは観客がなんとなく分かる感じにななってますが、やはり事前に過去のパートがなければ縁という敵キャラとのバトルの重みがどうしても無になってしまいます。

正直、ごっそり削って映画としてきれいな形に上手くまとめるぐらいなら、映画として歪な形でも良いから「追憶編」の物語をそのままの時系列で限界まで詰め込んで雪崩れのように何かが押し寄せてくれた方が不恰好な形も含めて非常にエモい作品になったと思います。

でもこれは多分原作ファンの弊害が出てしまって楽しめなかった典型的なやつだと思うので、ほとんど知らないぐらいの人の方はむしろ純粋に大友啓史監督の邦画トップクラスの圧倒的な映像クオリティとともに「るろうに剣心」を楽しめると思います。


ばっちしなキャスティングと画面作りはすごく良かったですしね。
雨や雪など、ちゃんと野外の天気を使った美しい映像で叙情を盛り上げるのは映画ならではの良さだと思います。
あと、元々凄かったアクションもシリーズを増すごとにちゃんと進化していて感心しました。
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