ちょげみ

燃ゆる女の肖像のちょげみのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
3.8
【あらすじ】
画家のマリアンヌはブルターニュの婦人から、娘のエロイーズの肖像画を描くことを依頼される。
早速島へと赴き、館へと到着したマリアンヌだが、伯爵夫人から、エロイーズは肖像画を描かれることを拒否しているため、画家という職業を隠してあくまで散歩の付き人として接してほしいとお願いをされる。
身分を隠しエロイーズとの交流を始めたマリアーヌだったが、徐々に二人は打ち解け始めやがて禁断の関係へと発展していく。。。


【感想】
どのワンシーンを切り取っても美しい、絵画のような映画でした。

女性の権利がまだ確立されておらず、男女間や階級間の違いが明白だった時代において、マリアンヌとエロイーズの愛、そして上流階級のエロイーズと画家のマリアンヌ、使用人のソフィとの平等な関係を優しく描き出しています。


特にエロイーズとマリアンヌが画家とモデルの関係から愛を結ぶ関係に移行していくプロセスの描き方には目を見張るものがある。
当初、エロイーズを被写体として見るマリアンヌは、彼女の顔の造形の表面的なところに注目する。
耳の形、目の形、光が当たった際の肌の光り方、、、しかし満足感を持って描き終わった絵はまったくエロイーズに似ておらず、彼女はそのことを指摘された怒りから絵を放棄する。

そして2作目。エロイーズとの関係を深めた彼女は、今まで注目していなかった点に気づき始める。
怒ると眉が上がる、苛立つと...などエロイーズの感情の揺れ動き方も徐々に把握してゆき、肉体関係も持った事でさらに彼女の深奥まで把握していく。
そうして描き終わった絵はエロイーズから高い評価を得るもの、彼女自身は納得できない出来栄えだった。
エロイーズの内面を知った事でいままでの彼女では見えなかった魅力を発見し、その魅力を絵の中に表現することにおいて並々ならぬ執念を発揮する。
この短期間で二人が仲を深める中で彼女が画家としても成長を遂げた瞬間を巧みに描いていた。


そして今作品の大きな特徴といっていいのが音楽だ。
作中において音楽がわずか2曲しか使用されていない。
音楽が使われないことで必然的に自然の音が前面に押しでることになるのだが、これがまた素晴らしい効果を発揮していた。
靴が床を踏み鳴らす音、筆がキャンパスの上を走る音、雨が建物を叩く音、食器が触れる音、衣擦れの音、、、
これら生活音が印象的に響き渡り、静謐な空間において大きなインパクトを残している。
そして音楽がないことは登場人物たちへ視線を集めることになり、より深く彼女たちの一挙手一投足に注目することになる。
眉の動き、視線の揺らぎ、口元のわずかな変化、、、
彼女たちがお互いに警戒している初対面からいかに打ち解けていったのか、自然音をバックに丁寧にそのプロセスを見事に描き出していた。
ちょげみ

ちょげみ