ユウサク

アニエスによるヴァルダのユウサクのレビュー・感想・評価

アニエスによるヴァルダ(2019年製作の映画)
4.8
本当にアニエス・ヴァルダありがとう。

『5時から7時までのクレオ』『幸福』『冬の旅』『ダゲール街の人々』『ラ・ポワント・クールト』『ジャック・ドゥミの少年期』くらいしか見られてない状態で見ちゃったけどここからまた未見の作品を事前知識ありで楽しめるんだからそれもそれで幸せ。特に『歌う女・歌わない女』は今すぐにでも見たい。現時点で『歌う女・歌わない女』や『カンフー・マスター!』とかのリマスターされた映像を見られるのは今作だけかな?なんでソフトはDVDしか出てないのか疑問に思いつつ配信ではHDだから良かったけども。

自身で各作品を丁寧に紹介しつつ撮影技法や編集といった作り手側にも有益な情報をたくさんくれるうえにドキュメンタリーに少しだけ作為を加えるようなヴァルダの十八番を実践形式で伝授してくれるっていう至福の時間。何でもないようなショットにギョッとするような仕掛けをしてくれるので驚嘆と感謝が止まりません。
デジタルカメラの登場によってスタイルが変化する作家は他にもいるけど「より被写体に近づける」ことに面白さを見出していったヴァルダ、流石。後年は現代アートの方に活動を移していったの知らなかったな。当たり前なんだけど、手法が変わっても作品全てが映画で表現されてきたことと地続きだった。「愛」の人とはアニエス・ヴァルダのことだ。
またボルタンスキーのインスタレーション『ノーマンズランド』については最近読んでいる岡真理の『ガザに地下鉄が走る日』にも記述があった。ユダヤ人を匿った「正義の人」のための式典用にヴァルダが映像を作成した件に絡めてあったけど、今まさにイスラエルがパレスチナに対して民族浄化を行っていることも当然想起され、涙が出た。「今も各地で戦争が起こっている」というナレーションと共にフッテージが流れていたけどあの中にもシリアやヨルダン、レバノン、そしてパレスチナの生きている人、殺された人が映っているはず。我々もこの虐殺に加担していることを自覚し、何かできることを模索する毎日。社会と切り離された場所なんか無いな。

そして妙にオープンクレジット長いなと思ったらラストでしっかり〆てきた。さようならヴァルダ。ありがとうヴァルダ。あなたがどこにでもいる気がする。
ユウサク

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