うめまつ

ANIARA アニアーラのうめまつのレビュー・感想・評価

ANIARA アニアーラ(2018年製作の映画)
4.0
宇宙に葬られた棺の中に閉じ込められた時、人は仮初の楽園を拵え、思い出の中で呼吸をし、創作した神を崇め、ひと時の肉欲に溺れ、希望を捏造し、恐怖を呼び起こす者を排除し、正気の者は自ら命を絶つ。地球を何万光年離れても、そこに人間が集う限り繰り返されることは同じなのだ。

原作は70年近く前に書かれた小説らしいけど、予言していたのか何も変わってないのか、この何処にも辿り着けない方舟の中は現代の縮図のように見える。私達は限りなく近い未来にこの巨大な宇宙船と同じ運命を辿るだろう。この青い宝石である地球を与えられながら、その唯一無二の宝を守る事もできず、自ら食い潰した美しい自然を瞼の裏に宿しながら暗闇の中で震えて眠るのだ。

暗くて重くて静かで、始まりから終わりまで諦念に満ちた映画だけど、何も新しい恐怖は描かれていない。目を逸らし続けている人類の顛末をわかりやすく描いてくれているだけだ。舵を切り換えるべき時はもう既に通り過ぎた。ましてや戦争や侵略や虐殺を許している場合じゃない。この生命も資源もいつか確実に朽ち果てるのに、それを奪い合って焼き払っていい訳がない。そんな愚行を止められない私達にこの地球を所有する権利なんてない。ただそれだけのこと。
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