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スクールズ・アウトのslowのレビュー・感想・評価

スクールズ・アウト(2018年製作の映画)
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声が海に手招きしている。

大人は判ってくれないとか、そういうことではない。真面目に学び、世界を見渡し、真剣に人生を設計すれば、その分だけ、人生への悲観は膨らみ続ける。こんな時代に君たちは何を思い、羽ばたいていくのか。
不穏から不穏へと、暴かれず繋がれる物語と、ジョン・カーペンター的音楽の浮遊感(というか映像もややカーペンターぽさあり)。そして、キャストがどいつもこいつも楳図かずお漫画から飛び出して来たような顔面(表情)で次に何しでかすかと目が離せなくて最高だったよ。


これより話のネタバレを含みます。





単純に生徒たちが世界に絶望する物語とも考えられる。でも、ちょっと見方を変えてみる。

生徒たちによる教師潰し。最初はそのような印象を持っていたけれど、カパディスは生徒たちに追い詰められたのではなく、傾倒していた環境問題の先行きを憂いて自殺したのではないか(環境テロリストの類い)。冒頭、カパディスが見つめる生徒たちの首筋に光っていた汗。温暖化は待った無しで進行している。カパディスはその思想を生徒たちに説き、その教えは洗脳に近いものになっていたのではないか(学内で孤立したクラス、また受け入れたのがクラス全員ではないところがリアル)。カパディスは興味を示した6人をこの世界からの死という救いに導こうと、自らメッセージとなった。あの時、自殺に動じなかったように見えた生徒たちは、それを手本として見ていたのかもしれない。これはかなり飛躍させているけれど、誰でも無限に情報を見聞きできるこの世界において、知る権利、知ってしまう環境を子供に与えることの危険性はあると思う。その難しいバランスを考えてあげるのが親、教師なのだろうけれど、この生徒たちはカパディスという偏った考えを持つ教師に巡りあってしまった(彼は情報の影響力を擬人化したような人物だった気もする)。こう考えていく上で思い浮かべてしまうのが、ある環境問題の重要性を大人に訴え世界中に発信をしていた少女のこと。真実を知るべきであったとは思うけれど、彼女は今も貴重な学びの(遊びの)時間の多くをこのために費やしている(現在も活動していれば)。それは果たして彼女にとって幸せなことなのだろうか。関心があり探究心があり、調べれば調べる程情報が溢れてくる時代。彼女はもしかしたら思いもよらない沼に身動きがとれなくなってはいないだろうか(そもそも、そのきっかけは私たちや先人であり、このように他人事として受け止めてしまうことに彼彼女らは失望しているのだろう)。本作の生徒たちを見ていると、そんな彼女の状況(あくまで想像だけれども)が重なって見え、だからこそ、ラストシーンに目頭が熱くなったのだと思う。あそこで見せる子供らしさは、結局迎えてしまった最悪の現実への隠し切れない恐怖心だった。では自分たちで死を選び、この現実を迎えなければ救われたのか。少なくとも、あの行動はピエールと生徒たちの出会いが無駄ではなかったことの証だったと思う。

ピエールについて。40歳でまだ夢を追うことの難しさ。もちろん、夢に年齢制限はないけれど、実際にはないとも言えない。生活の母体があれば良いけれど、その場しのぎの生活をしながら、いつまでも自分の力を信じ続けるということは、やがて焦り続けることへと変わって行く。生徒とのやりとりにカッとなるシーンにそれは表れていて、もしかしたら、盗まれた論文自体も書いてなどおらず、ピエールの妄想だったのかもしれない。そんなピエールにとって、生徒たちの未来が唯一これから救えるものだったのだとしたら、バスのシーンの必死さと涙もとても感動的で、素晴らしいシーンだったなと思えてきた。監督がそうであるからか?ゲイであることが特別映画の中で語られないのも何か新鮮。良いと思う。

もうこれネタバレでも何でもないレビューな気が(妄想大盛り)。本当、あのラストで一気に心を鷲掴みにされ、揺さぶられ、そこまでの作品へのイメージがひっくり返った。ただ、所謂どんでん返しとは違うので、誤解のないように(個人的には十分どんでん返しだったよ)。凄いぞ、セバスチャン・マルニエ!
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