ブロオー

犬王のブロオーのレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
3.8
アニメーションはやっぱり上手い。観ていて面白いし、水とか火とか風とかの動きを描写するセンスは抜群だと思う。
湯浅監督は水中にずっとこだわり続けていて、今回も鯨とか出てきたりするが、いよいよついていけないところまできてしまった。
今までの作品の総決算的な位置付けにもなると思う。京都が舞台なので「四畳半神話体系」を思わせる橋でのパフォーマンスのシーンもあるし、「きみと、波にのれたら」「夜明け告げるルーのうた」でかなり海の表現を突き詰めてきたわけでもある。
ただ、アニメーションに合わせている音楽のセンスが個人的にいまいちハマらなかった。これは、かなり絶望的なところで、ミュージカル映画にしろ、ディズニーアニメにしろ、それなりに踊りとかダンスとか動きと歌のイメージがきちんと揃っていると思うが、この作品はけっこう乖離していると思ってしまった。というか湯浅監督の音楽センスがここのところ自分に合わない。
一番好きなのは、自らの芸術のために腹の中にいる我が子の魂を差し出す父親の描写で、逸話としてはよくあるものだと思うがやっぱり切ない。独善的ではあるが、家族を養うためにはそれなりの仕事もしなくてはならない。父親というのは血の繋がったいわゆる“父親”としてだけでなく、国家とか国父とかもっと大きな存在に思われた。お国のために兵士になるのだよ、国民とはそういうことだろうし、能楽とか歌舞伎の一族、平家とか源氏一門も父子関係というのはそういうことでしょう。最初から子があるのではなくて、父のために子はあるというね。
犬王とトモアリという身体的にハンデを負った人物にフォーカスするのは、新しい方向性に舵を切った感じはあるが、化け物的なモノを描きたい欲があるのだから無理に人間というところに落ち着かなくてもいいと思う。
とにかく星空と花が舞う描写は綺麗です。