小松屋たから

サヨナラまでの30分の小松屋たからのレビュー・感想・評価

サヨナラまでの30分(2020年製作の映画)
3.5
若者たちのバンドもの、メジャーデビュー一歩手前での内輪もめと仲間の喪失、一人ヒロイン、死者からの励まし、見守る懐深い大人、解散からの再起…この系統の映画は本当に多くて、音楽タイアップというビジネス展開と結びつきやすいということもあるのだろうが、さすがにやや乱立気味ではないだろうか。でも、若い頃に、バンド、やっておけば良かったなー、といつも羨ましく思わされるから、確かな需要もあるのだと思うけれど。今は減ってしまったいわゆる「アイドル映画」(「キラキラともまた異なる)の変形とも言えるだろうか。

こういったバンドものでさらにありがちなのが、地方から東京へ出たい若者と、留まる側の意識の差、そして、東京で挫折して帰ってきた若者の屈折、なのだが、本作では、舞台となっている土地を明示しないことで、あえて、さらに既視感溢れるそのテーマにはまでは手を出さなかったのかもしれない。

ただ、主人公の就職活動先が結構近い大都会だったり、ライブハウスに力のあるプロデューサーがしょっちゅう出入りしていたりと、物語としては基本的には東京近郊を舞台にしているのかな、と思うのだが、実際はおそらく長野の松本を中心にロケをしているので、ヒロインの職場の周囲など、いかにも「らしい」街並みと、起きている事象のずれが、無粋なようだが、気になった。

ロケ場所の表面的にオシャレで綺麗な部分だけを、先方のロケーションサービスの熱心な誘致に便乗して制作サイドが都合よく利用しただけ、と見えなくもない。それは、決して観光誘致になるような映像をもっと入れるべきというわけではなく、物語としてロケ地の風景、土地の匂いを消化しきれていないのでは、という印象が残ったということだ。

でも、若い役者さんたちの輝きはとてもまぶしく、彼らのプロモーションVTRと観れば、惹きつけられる場面は多かった。楽曲もオリジナルにこだわっていて、最近よくある安易な「名曲インスパイア」とは異なる気概は感じた。入れ替わりの理屈の説明の描写も簡潔で巧み。映像も写真的で美しい。だから、観て後悔、ということはまったくなかったです。