Fitzcarraldo

少年の君のFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

少年の君(2019年製作の映画)
5.0
香港アカデミー賞とも称される第32回 香港電影金像奨(2020)にて作品賞・監督賞・脚本賞・主演女優賞・新人俳優賞(易 烊千璽)・撮影賞(余静萍)・服装デザイン賞(吳里璐)・歌曲賞(Ellen Joyce Loo "Fly")の8冠を獲得して、第93回アカデミー賞国際長編映画賞(2021)にもノミネートされたDerek Tsang(曾國祥)監督作品。

このデレク・ツァン監督は、サッカー選手からスタントマンそして俳優業から監督、プロデューサーからTVの人気司会者と華麗に転身し、香港において知らぬ人は存在しないと云われるほどの知名度を誇る重鎮エリック・ツァンの長男だという。

エリック・ツァンと云えば『無間道』"Infernal Affairs"(2002)で演じた胡散臭いマフィアのボスの役がとても印象に残っている。

親父の英才教育があったのかどうかは知り得ぬが、親父が成しえなかった香港電影金像奨において最優秀監督賞&作品賞のW受賞の長男デレクは、監督としては親父を超えたと言っていいだろう。


脚本は、東野圭吾に影響を受けた…というかパクリ疑惑で大騒ぎになったらしいJiuyue Xi(玖月晞)によるネット小説『少年的你,如此美麗』を原作に、三人の女性脚本家Wing-Sum Lam(林詠琛)・Yuan Li(李媛)・Yimeng Xu(許伊萌)が脚色。

個人的な印象なのだが…「本好きで、よく読む」という発言をする人に、「何読むの?」「誰が好きなの?」と聞くと、男性は伊坂幸太郎で、女性で最も多く挙がるのが東野圭吾である。

その答えを聞く度に、アラフォーの私は、やんごとなき重い気持ちになるのだ。

それだけで悪しきものだと東野圭吾を読んだもことないくせに決めつけてしまうのは、さすがに強引だとは感じつつも、流行りものに難癖をつけたがるのは、どこか河村市長のデリカシーの無さに通ずるものがあるので、それだけで東野圭吾を否定するのは、さすがに自重しなければ…。

人の好みにとやかく言う方が野暮である。

しかしなんだが…得てして「本が好き」と自ら発信する人に限って、どこか知的に見られたいという他者への間違ったアピールであることが多い気がする。

「東野圭吾の何が好きなの?どういうところが好きなの?」という問いにキチンと答えられてる人に会ったことがない。

たぶん…キチンと答えられる人は、本好きを自らアピールしないんじゃないかな…

全く関係ない話をしてしまった。
話を戻す。


主演には【13億人の妹】の愛称で親しまれる人気女優Dongyu Zhou(周冬雨)が、日本のセンター試験に当たる中国の全国統一大学入試「高考(ガオカオ)」を受験する高校3年生チェン・ニェンを演じ主演女優賞を。

そのチェン・ニェンを守るシャオベイ役を、中国で初めて世界的に成功した3人組の国産ボーイズグループ"TFBOYS"のメンバーであるYi YangQianXi(易 烊千璽)が演じ新人俳優賞を。

チョウ・ドンユイとイー・ヤンチェンシーの2人の演技は誰もが認める圧倒的なチカラだと思うので、ここでクドクドとあげへつらうのは…やめておく。

わーぎゃー騒ぐ日本のチープな感情表現なんかは一切しない。葛藤も感情も互いに抑えて抑えて抑えるんだけども、それでも端々から漏れ出てしまった時のbehaviorを確実に捉える。いや…ほんと素晴らしい。

もう2人のことを好きになってしまっている自分がいる。マサラ上映だったら声出して応援したことだろう。

とにかく2人が救われることを切に願わずにはいられない…。

ベタなところや気になるところ、特に終盤など、足を止めてしまえば萎えそうなところもあるのだが、ここは前のめりで2人の行く末を案じておれば…そこまで気にならないかなァ…

終盤は、こちら側から意欲的にセンチメンタルを迎えにいってた感はあるけど…。臭いところにバンバン蓋を被せにいってた気はするけど…

それでも問題ない。

この2人の純粋さが好きなのだ。

互いのために相手を純粋に想うがための葛藤が苦し過ぎる…。

いつぞやの自分も、2人と同じように滾る純粋なものを抱えて生きてきたはずなのに…

いつの間にかデレク・ツァン監督が云う「大人の世界特有の無関心さや冷酷さ」の中に自分が生きていること、そして無関心さや冷酷さを知らぬ間に自分が装備していたこと。

この事実を突き付けられてしまった…。

昔の時分なら、当事者と同じ目線で、少年や少女の側から見ていたと思うが…これが残念ながら、まるっきり部外者というか、チェン・ニェンの通う学校の先生と変わらない視点から見ている自分に驚かされる。

アラフォーにもなって当たり前なんだけど、自分がもう少年の側の視点にいないことが寂しすぎる!それを自覚することも辛い…ウソだろ?!いつの間にオレも汚ぇ大人になってしまったのか…。


プロデューサーのジョジョ・ホイ
「彼らは無力で、どのように育っていくかは私たち大人のあり方にかかっているとも言えるわけですから。そして彼らがどのように育つかで、今後の社会がどのようになるかが決まり、それらは全部私たち、つまり今の大人が責任を負うべきものなんです。今を生きる若者たちの青春が、私たちの社会の将来を決めるのだということについて考えてみて欲しかったんです。私たちが、子供たちにどのような青春を与えられるのか、考えて欲しいのです」


余談だが…
この回に加瀬亮が普通に見てた。
彼が本作をどう見たのか気になる…。

泣きすぎて目を腫らす私とは対照的に涼しい顔して帰っていった気がする…。
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