Fitzcarraldo

一人っ子の国のFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

一人っ子の国(2019年製作の映画)
4.0
サンダンス映画祭(2019)ドキュメンタリ部門で中国の深い闇を晒してグランプリを受賞したNanfu WangとJialing Zhang共同監督作。

1979年
中国は一人っ子政策を施行

1982年
一人っ子政策を憲法に明記

2015年
一人っ子政策を廃止

廃止当日、中国共産党は次の声明を発表
"政策は国力の強化と人々の繁栄、世界平和に貢献した"

この字幕から始まる。


少年時代を過ごした80年代…
中国では"一人っ子政策"をしていると授業なのか?親からなのか?耳に入ってはいたのだが、それがどういうことなのか全く理解していなかった。どうすれば子供が産まれるのかも分かっていないくらいの少年なのだから理解できるわけもないのだが…

そのままフワッと無理解のまま大人になってしまった。

まさか憲法にまで明記してるとは…冒頭から衝撃を受ける。めちゃくちゃやるなァ…命に制限をかけてしまうような破茶滅茶な政策を、なぜ中国国民は黙って従ってしまったのか?

それほど恐怖政治を断行していたのか?
プロパガンダで洗脳されていた?

2015年という、ついこないだまでこの政策が施行され続けていたことにもまた衝撃を受ける。

そして急展開で、今度は子供を増やせとプロパガンダを囃し立てる…嘘だろ?ここまで馬鹿にされてなぜ黙っているのか?

戦後日本も、いきなり戦前教育などを否定したので、大人たちのあっという間の手のひら返しに純粋な子どもたちはシラケてしまったというエピソードをよく聞くが…

中国もそうならないのか?
一人っ子政策をやめて、今度は産め産めと大合唱するのだから、シラケるのが当然だろうに…どう思っているのか?

中国の人と話してみたい。


国家の舵取りを一部の権力者に委ね任せっきりにしてしまうと、こういう馬鹿みたいなことが平気で起こるという良い事例であろう。

これを肝に銘じて、有権者は為政者を監視しなくてはならない。なにか暴走をしやしないか?その兆候が見えたら、すぐに止めるように民意を機能させておかなくてはならない。

これは日本に於いても非常に大切なことである。







1985年のアメリカ?のニュース映像
キャスター
「中国では人口が10億人を超え、深刻な経済問題を引き起こしています。次世紀半ばまでに、ひと家族平均子ども3人では国は飢餓状態に…しかし1人の場合、生活水準は2倍になります。核家族の子どもを1人に制限すべく、中国政府は罰金インセンティブ宣伝を駆使しています」




助産師
不妊手術をしてきた助産師

「自分の行いは自分に返ってくるものよ。
慈善活動として、いつも最初に寄付することにしてるの。寺院や橋、記念碑の建設の際にね。私は悪事を働いた。悪事ではなく仕事だと言う人もいるだろうけど、手を下したのは私よ。私が赤ん坊を殺した。政府の命令だけど、実行したのは私よ…。
以前、108歳の僧侶に言われたの。"できるだけ安く不妊治療を行えば、命を授けるごとに過去の罪が消えていく"と。その言葉で今の仕事を決断したの」


PROPAGANDA VIDEO , 1998

ナレーション
「一人っ子政策は不可欠でした。1979年の政策の施行以来、3億3800万人の人口増加を抑制し、1億3000万ドルに値する資源を守りました。計画生育委員会が、それを可能にしたのです」


元計画生育委員
ジャン・シュウキン
「もし同時に戻れるとしても、また同じ任務を果たすわ。いま考えても間違いなく、あの政策は正しかった。先見の明があったのね。政策がなければ、この国は滅びていた…。
中絶した赤ん坊の多くが8〜9ヶ月だった。取り出してもまだ生きてるの。逃げ出す妊婦を追うこともあった。ある時、ひとりの妊婦が錯乱状態になって、服を脱いで裸で逃げ出したの。捕まえられなくて、総書記にこう言ったわ"裸じゃ、つかむ所がない"…(笑)そんな感じだった。中絶手術の最中、女性たちは取り乱して泣き叫んでた。そういう記憶は、個人の感情よりも国益が優先だった。戦争みたいなものよ。死は避けられない。本当にそんな感じ(笑)私たちは"人口戦争"を戦っていたの」

コイツは、何を笑ってやがる。



芸術家
ワン・ペン
「人間なら人を殺すには勇気が要る。特に若い看護師には並大抵のことじゃない。彼女たちが殺せたのは、長期にわたる洗脳の所為だ」

ー具体的にどんな洗脳ですか?

ワン・ペン
「例えば"集団的利益が最優先"…"党は絶対だ"という教えも同様だ。洗脳は人間性や個性、判断力を破壊し、党の命令なら正しいと信じさせる」

ー多くの人が信じていましたが、なぜあなたは疑問を持ったのですか?

ワン・ペン
「実は1996年に、テーマとして政策の探究を始めたんだ。その当時の作品テーマは"ゴミ"だった。あらゆるゴミが集まっていた。プラスチックや木片、廃棄物だ。ここ辺りは特に多数のマネキンが捨てられていた。この光景に心を動かされて作品にしたいと思ったんだ。場所を探していた時、見つけてしまったんだ。たくさんのゴミの山の中に…捨てられた胎児をね。胎児は黒いビニール袋に包まれて、"医療廃棄物"と書かれた黄色の袋に入っていた。それ以来、一人っ子政策の現状をより理解したいと思ってる。
皆に考えてほしかった。なぜこんなことが起きたのかを…忘れ去られるのは悲劇だ。政策が廃止され、好きなだけ子どもを産めれば、記憶も失われていく」





ナンフー監督と、その母。

ナンフー
「いまも政策には賛成でしょ?」


「一人っ子政策がなかったら人食いが起きてたわ」

ナンフー
「(苦笑)そんなに深刻?」


「もちろんよ。子どもが増えれば一人分の食べる量が減るわ。知れてるでしょ」


ナンフー
「すぐに大きくなって、家族のために…」


「餓死する人がいた。私たちの時代は暮らしが大変だったのよ。食べるものといえば、便秘の原因になる籾殻だけ」

ナンフー
「でも生き延びてきた」


「そうだけど、ギリギリの生活だったわ」


「一人っ子政策を、そんなに非難するべきじゃないわ。確かに家を取り壊すのは残酷だけど、政策を実行するためには、必要な手段だったのよ。みな子どもを欲しがってたもの」


ナンフーナレーション
「何も言えなかった。母も信じてるひとりだ。国の生き残りに必要な政策だったと…。でも、わたしは問いたい。各家族の犠牲に値する政策だったのかと…」

ナンフーナレーション
「私の家族は誰も政策に疑問を抱かなかった。政府はより良い生活を見せて、政策に従えばそれが叶うと想像させた」



老害ジジイ共の集まりにて

あるジジイ
「わしらが欲しいのは間違いなく男の孫だ」

ナンフー
「なぜ?」

ジジイ
「家名を継承するためだ。男の子孫がいなければ、家系が途絶えてしまう」

(だからオメェの家名なんか残してどないすんねん?継承してどうすんだよ?何も世の中に残してない奴の家名をなぜ必死こいて残そうとしてる、その自信過剰な前のめりさにドン引きしてしまう。)


ナンフー
「女の子は?」

ジジイ
「女の子は結婚して嫁ぎ先の家族になる」


ナンフーナレーション
「故郷に戻り、祖父との写真がないことに気づいた。孫息子としか写真を撮っていないのだ」



ナンフーの弟
「バカげてるのは、母さんも、おばあちゃんも、男子を贔屓することだ。自分たちだって女性なのにね。例えば、おばあちゃんは僕だけにお菓子を取っといてくれた。母さんは僕だけ学校に通わせ続けた」



母の弟
ワン・シフアの娘を捨てるのを手伝うナンフーの母。


ナンフー母
「真っ昼間に赤ん坊を置き去りにはできないわ。だからバスケットに赤ん坊を入れて暗いうちから山を登った。お金を服の中に入れて、市場の肉売り場に置いてきたわ。丸2日間、放置されたままだった。誰も欲しがらないの。顔中、蚊に刺されていたわ」

ナンフー
「死んだのね?」


「そうよ、だからわたしたちで埋葬したの」

全く罪悪感なく、淡々と話す母。
いいことしたってなもん。
恐ろしいなこの感覚は。


父の姉
ワン・グイジャオ
「義理の姉妹に助けてもらい、娘を人身売買業者に渡した。赤ん坊1人につき45ドル稼ぐらしいわ」

ナンフー
「叔母さんにもお金を?」

ワン・グイジャオ
「まさか!女の子は用なしよ。置き去りにされて大勢死んでる。身体中うじ虫まみれでね。市場に拾ってくれる人はいないと母さんが言ってた。娘をそんな風に死なせることはできない。その時は娘の将来まで考えられなかった。ただ生きていてほしかったの」

ナンフー
「自分の娘が恋しい?」

ワン・グイジャオ
「恋しくないはずがないわ。生死もわからないの」

ナンフー
「人身売買業者は情報を…」

ワン・グイジャオ
「教えるわけがない!まさか!将来、赤ちゃんの実の家族に居場所を突き止められ、取り返されたら?それを避けるため…。あれから30年。あっという間よ」

ナンフー
「振り返ってみて、あの政策を恨みに思う?」

ワン・グイジャオ
「恨む?政策は政策よ。恨みはない。これがわたしの運命よ」



深圳

元人身売買業者
ドワン・ユエノン

ナンフー
「養護施設送りにした赤ちゃんの数は?」

ドワン
「ちゃんと数えたら10000人ぐらいになるだろうな。1000や2000じゃない」


ナンフーナレーション
「彼は、ほぼ毎日電車で広東者に行き、赤ちゃんを拾って、電車で湖南省に戻り、施設に売っていた」

ドワン
「昼も夜もこの道を歩いては、捨てられた赤ん坊がいないか探した。そして見つけたら施設に連れていった。施設は1人につき200ドル払ってくれた。赤ん坊は国外へ養子に出され、その謝礼で施設はまた赤ん坊を買う。その繰り返しだ」



ナレーション

中国では1992年から外国人が国際養子縁組制度で、中国人を養子にできるようになった。



壁に書かれた標語

【許可なく妊娠出産するな】
【違反者を通報してすれば報奨は最高120ドル】
【避妊手術を拒めば直ちに逮捕】
【避妊手術を拒めば家族全員が連座】
【秘密の妊娠出産は断固たる措置を取る】
【堕ろせ、流せ、絶対に産むな!】
【出血で川ができても2人目は産ませない】




ナンフー
「中国のどこで聞いたとしても、同じ答えが返ってくる。〈厳格だった〉〈仕方なかった〉…"仕方ない"という答えを何度も聞くうちに痛感した。一人っ子政策の影響は計り知れない。
私は家族にも腹が立った。手立てはなかったのだろうか…共通していたのは強い無力感。このように人生の決断をすべて人に決められてしまうと、結果に責任を感じられなくなる」



ナンフー
「皮肉なことに私は、政府が中絶を強要した国を離れて、中絶が制限される国に移住している。一見、正反対のようだが、女性が自分の身体を自由にできない点で同じだ。
一人っ子政策は35年続いた。中国は高齢者を支える働き手の若者が足りない。そこで新たな計画的生育政策を導入した」

【一家で子どもを二人持てる】
【1人は少ない。2人がいい】

ナンフー
「村の標語も全て変わっていた。一人っ子政策の痕跡はすべて消された。だが一人っ子政策の実態は経験した人々の記憶に残る。こうした政策の記憶が薄れたら、唯一残るのは宣伝だけだ」


2人っ子政策を推奨するクソみたいなプロパガンダ舞踊をテレビで見ている祖父。

この急展開に何を思うのか?
何も話させないで終わるのはいいエンディング。
何を思うのか?仕方ないと信じていた政策を簡単に裏切る政府に盾つかないのか?

このマヌケなババアどもが政府の急な方針転換に何の疑問も持たずにアホ面で舞踊して終わるのがまた何とも素晴らしい皮肉が効いたエンディング!


【中国人スタッフは全員が一人っ子政策世代。今と未来の世代に捧ぐ】
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