ベビーパウダー山崎

乳母のベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

乳母(1999年製作の映画)
4.0
あえてキチガイの女性に手紙の返信を読ませるラストが美しく泣いてしまった。手紙の締めが「待つだけの人生ではなく、未知を恐れはしない」。産み落とした赤ん坊を抱くことができない妻も、その赤ん坊に己の乳を飲ます乳母も、夫でありながら父の役目も果たさなければらない男もキチガイ病院の患者も革命家もみなそれぞれの立場で必死にもがいていて、例えその行動が間違いであったとしても一歩前に足を進めなければ未来は切り開けない、保守的な世界、閉塞した状況をどうにか変えようしている人々の生きる意思の力に、その先にある圧倒的な存在の肯定に激しく心が揺さぶられた。
内輪の関係性のみで個人を描いているわけではなく、革命やキチガイ病院の色濃い背景ありきで、つまり社会が導火線となり各々の感情が爆発するからベロッキオの映画は強い。シンプルなキャラクターを複雑な世界に放り込む、物語を混沌とさせながらも救済がそこにはある。決定的な場面の積み重ね、まどろっこしい形式上の格好つけたくだりなどはすべて削っていく、パッションと衝突、常に刃先を尖らし甘えた映画は決して撮らないベロッキオ、どこまでも誠実な作家だと改めてRespect。