たかくらかずき

マトリックス レザレクションズのたかくらかずきのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

すごい!!!
これは、観客との、社会との、世界との、ポップスとの、アンダーグラウンドとの駆け引きだ!!
腰を据えて感想を書かねばならない映画だ。

冒頭ゲーム開発会社でマトリックスの続編を作るシーンにて「マトリックスといえば、バレットタイム、かっこいいアクション、哲学的な対話、隠れファシズム!」という台詞があった。これを全て裏切ることがこの映画の命題だったのだ。(隠れファシズムとは、カルト集団"Qアノン"にセリフを引用されてしまったことを指しているのだろう)

この新作にはかっこいいカンフーや銃撃アクションはほぼ皆無で、ネオは太極拳みたいなものでなんとか闘うだけ。マトリックスお得意の映像効果であるバレットタイムによりネオは苦しむことになる。全ての観客とマトリックス神話を裏切るために作られた作品だ。それは確実に意図的に行われている。壁に投影された過去作品の映像のように、それらを自己言及的に投影し、嘲笑いながら次の次元に行こうとしている。

人間爆弾のシーンはとくに恐ろしいほど美しい映像体験で、人が自殺していく不快感と爆弾が爆発する迫力とでとんでもないカタルシスを感じる。相反する二つの感情を揺さぶるシーンほど凄いものはない。いかにして今まで見たことのないシーンを作ってゆくかということを考え抜いた末に生まれたシーンなんじゃないだろうか。ネオがピルを選ぶときに平面的に映し出される過去作品のプロジェクションも、新しい表現方法で今作のメタ的、高次元的な立ち位置を示唆している。

ポストエンドクジット、マトリックスの続編を"ニャトリックス"にしてしまおうというスピンオフ・ギャグ的なシーンですら、もしやラストに2人が書き換えたマトリックスが"ニャトリックス"なのではないか?と勘繰ってしまう。だとしたら今までのマトリックス神話は全て台無し!熱心なファン全員に中指立てて最後まで最高!ほんとにクリエイターの鏡だこの監督は…

この映画には、歳をとったおじさんとおばさんが気功みたいなものでよろよろと戦うアクションや、ゾンビ映画のような雑多なスペクタクルしかない。でもそれが、そのダサさが巧妙につくられた罠だとしたら?それこそが、見させられている"マトリックス"だとしたら?

マトリックスの世界が緑色じゃないのも明らかに現代のオンラインゲームやメタバースをモチーフとしている。今やバーチャルの世界は現実よりピントがはっきりとしていてチープな質感のカラーなので、それに合わせてるんだろう。日本の電車の描写を思い出してほしい、そこには"日本"ではなく"日本を題材にしたゲーム"が描かれていた。

この"チープで質量のない、輪郭のはっきりした描写"が"緑色のブラウン管のフィルター"に取って代わった。この質感がきっといつか2020年代の質感として思い出されるだろう。

そしてモーフィアスはマトリックスの中のゲームの中のプログラムから、2回層を経て現実にボディを持つ。その入れ子構造にもワクワクしたが、このモーフィアスが現実に粒子で存在する技術は、20年後には想像できる世界になってるかもしれないのだ。だって20年前のマトリックスを見た時、バーチャルな世界なんて想像できなかったのに、今は想像できるのだから。

入る装置が有線の電話回線から無線のドアになり、現実世界には"人間""デジタルデータ""機械"の三種族が共存し、マトリックスから現実にDNAをアウトプットする。まるで3Dプリンタのように。最初のマトリックスがそうだったように、我々の生きてる世界の20年をもとに、さらに20年先を予想するSFになっている。

まだまだ書きたいことはあるけど、とにかくすごい!観客は試されている。

青のピルを飲んだ観客にとってはつまらないアクションと雑な物語のノスタルジーに満ちたB級焼き回し作品。赤のピルを飲んだ観客にとってはいくつもの挑戦と刺激と示唆に満ちた怪作!ダサい映画の隠れ蓑を被って、ハリウッドでこの作品を作りきった監督に拍手喝采です。
たかくらかずき

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