ちゅう

ワンダーウォール 劇場版のちゅうのレビュー・感想・評価

ワンダーウォール 劇場版(2019年製作の映画)
4.0
”本当にそれでいいのかどうかが分かんないんです”


去年、京都に旅行に行ったときに京大を見てきた。
受験生を対象にオープンキャンパスをやっていて、夏休み中にもかかわらずなかなかの人出だった。
これなら受験生の振りをして大学を歩ける…というのはだいぶ無理があるので少し遅咲きの大学生の気分で大学を散策してみた。

キャンパスが広くてまだまだ古い建物が残っている。
自転車の輪留めが石造りだったりする。
屋外の掲示板には「学生の怒りで大学自治をとりもどそう」だなんて手書きのチラシが貼ってある。
おんぼろの建物からバンドが奏でるわけのわからない曲が聴こえてくる。

真夏の日差しの中、陽炎のように大学生だったころの記憶が蘇ってきた。
僕もこういう古臭くてむさくるしくて、でもなんだか愛着の持てる大学に通っていたのですごく親近感が湧いた。
もう一度大学生活をするなら京大は楽しそうだなと思う。
どんなに頑張っても学力がとどかないような気がするけれど。


そんな古き良き京大の象徴として吉田寮という学生寮がある。
老朽化を原因に大学から立ち退きを求められ、要求に応じない学生が訴訟を起こされている。
それをフィクショナイズして描いた映画だと思われる。


”案外ここには人間の幸福にとってすごく必要ななにかがあるんじゃないかっていう気がするんです”
劇中で成海璃子が言うセリフなのだけど、結局今の日本各地の大学―いや大学以外でも―で行われているのは、経済合理性を求めてこういう”説明がつかないけれど大切なもの”を次々に壊していっているということなのだと思う。

失って初めて大切だとわかるけど、取り戻すのがものすごく大変なものってこの世界にはたくさんある。
”コンプライアンス”を筆頭にさまざまな謳い文句でこの世界を表面上漂白していってぱっと見綺麗にしていってるけど、それとともに生きる楽しさみたいなものも目減りしていっているような感覚がまとわりついて離れない。
もちろん本当に悪いことは壊して正すべきなのだけれど、その壊そうとしているものが悪いことなのかどうかについては自分で考える必要がある。
そうしないといつの間にか自分で自分の首を絞めることになりかねない。
この映画に描かれている学生のように、悩み惑いながら考えていきたいと思う。


そんなことを思いながらも、学生の面々がいい味出していて楽しい気分だった。
突然現れた軽薄なノンポリドレッドが苛立たしいけど憎めなくてなかなかよかったし、成海璃子は凛としているから思考がしっかりしている人の役がよく似合っていた。
子供みたいに高ぶる感情と子供みたいにあからさまな無関心が混じりあいながら生活している感じがとてもリアルだった。

ほんと、ああいうごった煮みたいな生活のなかで生きていくための大事なことをたくさん学んでいた気がするし、何にも学べていなかったような気もする。
でもあの日々が幸福であったことは事実で、そういう体験がこれからも大学生活から奪われないでいてほしいな、と思う。
ちゅう

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