マーくんパパ

彼女と彼のマーくんパパのレビュー・感想・評価

彼女と彼(1963年製作の映画)
3.6
何とも気持ちがざわついて後味よろしくない。東京郊外に併立する格差の象徴のようなハイカラな集合団地と違法建築バタヤン集落。モダンな団地生活している直子(左幸子)が夫の大学同級で屑鉄拾いしているバタヤン集落の伊古奈(山下菊二)に善意で近づき、同居している身寄りのない目の不自由な少女の病気や伊古奈の就職の世話を焼く。昼間は夫のいない空疎な団地生活を埋め合わせるかの様な無自覚の善意が周りの空気を掻き乱す。黒澤明の『天国と地獄』に近い隔絶した貧富の差、お互いを敵視しあっているバリアに踏み込む善意の無神経さが受け入れられるのかハラハラ見守る。バラックも取り壊され、団地の悪ガキたちに殺された愛犬クロを抱いて男は町を去って行く。善意が男には響かなかった無力感を直子は感じる。豊かで無くとも幸せはある、そっとしておいて欲しい環境もある事を高度成長しだした都市社会のアンチテーゼとして表現。