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フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛を込めてのLCのレビュー・感想・評価

3.9
面白かった。

たぶん、彼らの魅力って、その歌声だけではないんだろう。
仲間と強い絆を持ち、ということは、お互いがお互いの「個人を超えて持つ歴史」を背負い共有し、その全てを知っている場所、つまり先祖代々生きてきた港町そのものを愛する。そういうものが、近現代ではどこでも希薄になってきていて、だからこそ彼らは人を惹きつけるのかもしれない。
国歌を披露してくれと言われて、「これが俺たちの国歌だ、みんなの歌だ」と披露した姿がsnsで再生回数を稼いじゃったのって、そういうことなのかも。彼らが自分たちの生きてきた場所を、胸を張って愛していて、その愛をみんなで共有しているからこその姿。
嫌なことがあったら出ていっちゃえばいい、行きたいところへどこでも行けるような社会になったし、新天地で冒険をすることが珍しくなくなった、そんな世界から見る彼らは確かに、新鮮かもしれないね。
そして、その強い絆に外から触れようとし、中に入り、主に上司とアーティストの板挟みになりながらも彼らを推した主人公の心労がエゲツなさそう。

他者と深く強い絆を築くことに困難を覚える人がたくさんいる。
でもやっぱり、そういう絆を得るのは容易くない、山ほどあるめんどくさいことにひとつひとつ対処していかにゃならん。
それも確かにそうなのだけれど、もっと単純に、喜怒哀楽を共有したり受け止め合ったりする間柄っていうのが、一種の憧れの対象になってる部分があるのかな。他者の持つ問題を、自分にも関係のあることとして捉えてくれて、一緒に喜んだり悲しんだりしてくれる、そういう相手。1人が難しい顔をしている時に「自分はいいと思うけどね」と話を矮小化させて切り捨てない仲間。「難しい顔をしている彼にも、納得してもらおう」と言いつつ、お茶目して笑う。そうだねえ、その鳥はアホウドリじゃなくて、カモメだねえ。

そんな彼らと鮮やかな対比を見せる主人公の仕事仲間さんたちが、やはりわかりやすくて良い。
他者の気持ちを裏切り傷付けることに対して何とも思っていないし、そのくせ他者が自分の望み通りに動くことを当然だと思っているし、ウザくなったら仲間だろうと捨てればいいし、おせっかいにも捨てた相手の邪魔をする。お金を稼ぐ奴が正義だし、稼ぐ奴に同調することが仲間の証。
しっかりそういう在り方を見せてくれるからこそ、主人公と一緒に目の当たりにする漁師さんやその周囲の人の在り方を、なるべく誤解ないように受け取れる気がする。
自分ひとりが良ければいい、とか。
自分には関係ない、誰かに押し付けておけばいい、とか。
今多くの人が絆も連帯も得られないのは、そうやって切り捨てたり、切り捨てられたりすることが当たり前に広がった世界では、不思議なことでも何でもないんだろう。

主人公は、本当に骨を折って考え抜いて、手放すものは手放して、諦めずに頑張った。それは、そこに愛があるから。陳腐かもしれないんだけれど、これが通底しているのは紛れもなく重要なことだ。恋愛を絡められるのが苦手な私だが、本作ではそう感じる。
住んでいる街に愛を持てること、共に過ごす仲間に愛を持てること、仕事にも家族にも愛を持てること、仲間と過ごす場所にも家族と過ごす場所にも愛を持てること。愛を持ってる人たちの物語の中で、恋愛だけ仲間外れだったりしたら、陳腐さはともかく、寂しかったかもしれないね。
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